コンビニ店員を恫喝すれば女にモテる理由

 友人で身長が155センチしかない、とんでもないチビの男がいるのだが、こいつが信じられないほどモテる。
 今まで付き合った彼女は10人を越えていて、一度付き合うと長い。2股3股もよくやるし、3Pだか4Pもやったりしている。部屋もゴミ屋敷みたいな本当に汚い部屋で、コンドームやティッシュが何十個も転がっていて、便器にうんこがこびりついて白より茶色の面積の方が多いが、そんな部屋に女を連れ込んでしまう。そして十年以上洗われた形跡のないシーツの上で抱いて寝る。
 顔はかっこいいわけではない。ただファッションに関しては異様にこだわっていて、もう年は33になるのに川谷絵音みたいな雰囲気や髪型を真似ている。
 性格はかなりオラオラしている。男の前だと非常に静かで、相手を持ち上げるようなヨイショキャラなのだが、女の前だと恐竜のように大きくなる。おそらく長年の経験で、女に対してはオラオラ系で攻める方が吉という結論に達したのだろう。
 とにかくマメで1日に彼女と何度も電話したりLINEして、空いてる時間があれば彼女と何かしらのコミュニケーションをとっている。繋がっている状態が正常で、繋がっていない状態が異常という有り様だ。こいつを見てるとマメな人間ほどモテるというのは間違いじゃないと思う。俺は、33歳で一日中スマホを握りしめて彼女と連絡を取る男などかっこいいとは思えないが、女の目から見ると違うのだろうか?
 しかし、この男でも誰でも落とせるというわけではなくて、これも長年の経験から、自分のことを好きになってくれる女を直感的に察して、その女だけを狙って落とそうとしている。
 自分のことを好きにならない女を追いかけるのはエネルギーと時間の無駄だからやらない。自分が落とせる人間をよくわかっている。それは妥協と言えなくもないが、事実、我々はこういう手段を取るしかない。f:id:simaruko:20190613123512j:image

 ある日、このチビが彼女を連れてコンビニで買い物をしていた。俺ともう1人の友達も後ろについていたので、4人でコンビニに向かった形になる。
 そのチビがペットボトルのお茶を買って、お釣りをもらう際、店員がチビの差し出した手より、かなり高いところから落とすように金を渡した。するとチビは、
「そんなに俺の手が汚ねぇんだったら! ここにおけよ!!」と言って、店内全域に響き渡るような声で怒鳴り、レジ机をバン!! と叩いた。
 隣にいた彼女も店員も俺も友達も客もみんなびっくりして何事かと思った。
 店員は何度もすいませんと謝っていた。
「すいませんじゃねーよ! 客の手に触れんのが嫌なんだろう!? だったらここに置くとか釣り銭トレー用意しろよ!」
「もういいよ! ゆう君! いいから行こうよ!」
 彼女は必死にそのチビの袖を引っ張って連れ出そうとするけど、チビは頑なに動こうとしなかった。彼女は泣き出してしまった。店員も顔が青くなってしまっていた。
 彼女は泣き出してしまった。わんわんと顔をぐちゃぐちゃにして泣き腫らして、店内は結構な騒ぎになってしまった。
(おかしい……)
(たかがコンビニでお茶一つ買うだけなのに何がどうしてこんなことになってしまったんだ?)
 空中から金を落とされても別にいいだろう。そんなに手をギュッと握り締めてもらいたかったのか? お前が小さいから届かなかったんじゃないのか? なんで彼女は泣いているんだ? 女はでかい声を出されるとすぐに泣く。
「映画みたいだな」

 と友達が呟いた。

「ふ」と俺は笑った。

 コンビニの中で大きな感情がうごめいている。登場人物がみんな感情的で、感情的な人間が揃うと、それだけで些細なことが劇的になる。ペットボトルのお茶を買うだけで大事件になる。
「仕事なめてんじゃねえよお前。いい加減に仕事してんなよ?」
「ゆう君! もう行こうよ! ゆう君! うわああああああ!!」
 この世の終わりのように泣き崩れていた。すっかり熱が入ってしまっている。俺はこのバカ二人を見て気持ちよさそうだと思ってしまった。幸せそうだなと思った。セックスしているようにしか見えなかった。
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 その後、4人で夜の街を風を浴びながら歩いていたら、嘘のように今度は意気消沈していた。
「お願いだからもうあんなことはしないで……」
「わかった。もうやんねーよ……」
 ピュアな不良更生物語みたいだった。
 こいつらは現実の世界にいない。夢の中で生きている。女の顔を見ると、頬をピンクに染めて、すっきりしたような顔をしている。一段と彼氏のことが好きになったようだ。彼氏も風を浴びながらポケットに手をつっこんで歩いて、困難な事件と戦ったあとの主人公みたいな顔をしていた。
 こういうところがこのチビのモテるところなんだろうなと思った。クソみたいにくだらなかったが、彼女に満足を与えたのは事実だ。俺と後ろに居た友達は端役もいいところだ。どんなときも怒らず騒がずじっとしている男というのは、女の目から見たら舞台に上がっていない人間のように映るのだろう。
 女はでかい声を出されると、子宮にビンビン感じてしまってその場で立っていられなくなってしまう。感情をぶつけたりぶつけられたり、感情が暴れて激しく動き回るのが好きなのである。好きだし、癖になっていて、ニュートラルになっている。口では「落ち着いてる人が好き」「店員に優しくできる人が好き」と言うが、実際そういう人と一緒にいても何も感じない。風俗嬢が客に対する態度をとる。
 DVされる女が毎回必ずDVする男と付き合うように、女はこういう男が好きなのだ。頭では否定していても心はそういう男を求めてしまう。がなり立てられ耳につんざくような爆音が子宮いっぱいに響くと気持ちよくて、「イヤアァァァーーーー!!」と叫んで、その後二人でぼんやり宙を見つめて「あたし達、死んじゃおっか……」と言うまでがワンセットだ。これはやはりセックスなのだ。
 こういう男に彼女がいないということは決してない。他にもこの手のタイプの男を何人も見てきたけど、みんな彼女がいた。そしてみんな感情的な女だった(女はみんな感情的だけど)。
 店員に怒鳴った方がモテるというのは悲しい理屈だ。少なくともこの彼女から見て、俺と友達は男として見られていなかった。これは自分が女になったつもりで世界を見ればわかるけど、男はどれもこれも全員ナメクジにしか見えない。厚い壁が迫ってくるような感覚がなければ、男なんて全員同じに見えてしまう。
 女は視覚的に、恋をしたり人間を認めているわけではない。雰囲気だ。こんなチビでも川谷絵音みたいな雰囲気を出していればアーティスティックに見えるらしい。女は男以上に頭の中がお花畑である。ファンタジーの中で生きている。しかし面白いところは、姿形や装飾が伴わなくても、雰囲気だけそれっぽければ十分なようである。