33歳の俺が最近できた19歳の彼女を題材にして愛について本気出して考えてみた 2

 俺は恋愛をこうしろああしろと指南する記事を書く気はない。ほとんどのブログはこうしろああしろという指南記事で溢れかえっている。体験記事は少ない。周りを見ればそんな偉そうな記事ばかりなのに、体験記事の俺の方がずっと偉そうに見えるのは不思議だ。 俺以上に偉そうな記事を見たことはない。ただ自分の体験をそのまま正直に話す。そうすることによって、読者が追体験することにより判断と認識を進ませることができるかもしれない。そう思える自信が偉そうに見えるのだろう。それが文章の一つ一つに表れている。

 仕事は今自分のできる仕事以上のことはできやしない。こうやって文章を書くにしても今書ける以上のことは書けない、どんなに素晴らしいものを書こうと思っても書けない。できないことをやろうとしてもできるもんじゃない。目の前にあることをただ書くしかできない。それなら何の労力も要らない。そしてそういう時はいつも必ず良いものが書ける。だから人はいつも目の前のできることだけをやっていればいい。問題はそれは恋愛にも言えることなのかだ。

 常に新品を求めて、良いものを求めて、そうではないとすぐ捨ててしまおうとする自分が怖い。いつも捨ててばかりいた。捨てられたこともあるけど。
 俺は人とは違うのではなかったのか? 違う道を進んで、誰も求めようとしないものを俺だけは求めて、一生懸命大悟しようとするはずではなかったのか? そして大悟するためには愛が必要だということが分かっていたはずなのに。
 完璧な女を頭の中で作り上げて、そんな人間と付き合いたいと夢見てしまう。もっと良い女はいるはずと願ってしまう。現在ではなく未来を夢想して、今の彼女を振るということを何回もやってきた。

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 19歳の彼女が、「痩せたい、可愛くなりたい」というので、力になりたいと思ったけど、俺の言うことを聞かずに食べたいものを食べまくるという生活を送る彼女に対してイライラしてしまった。「食べることだけは本当に無理、他の方法を教えて」いう。しかし他の方法はない。食生活の改善以外に病気の治癒も美容の向上もない。
 人間にとって食べることは最大の楽しみだ。そして彼女は職業柄、お菓子を作る勉強をしている学生さんだ。今日も毎月購読している製菓の本が家に届いたと言って嬉しそうにしていた。その本を読まずに捨てろというのか。
 あまりにも少食や断食について勉強してきた。そしてそれを実践してきて、これは絶対に人間がやらなければならないことだと悟った。そして彼女のような重篤な持病を抱えている人間こそ、俺以上にやらなければならないことだと思う。基本的に少食はメリットしかないのである。人間が必ずやらなければならない債務である。
 一番腹が立っているのは簡単に弱音を吐くことや俺の言葉を聞こうとしない態度なのか。19歳だ。そういうものじゃないのか? 15歳も俺は年上なのに同じところで戦っている。イライラする時点で俺もどうしようもない。15歳年下の女の子を説得もできないどころか、イライラしてしまうとは情けない。
 彼女は本当にイライラしなければならない対象なのか?

(心がなければ愛せるようになれるのに)
 そんな事をよく思う。矛盾しているようだが、心がなければ人を愛せることができる気がする。イライラする気持ちやより良いモノを求めようとする気持ちや奢侈な気持ちや心の波風がばかみたいに騒ぎ立てて、全てをめちゃくちゃにしてしまう。他人は他人だ、俺ではない。何を食べようが自由だ。痩せようが可愛くなかろうが勝手だ。それを俺が愛せるかどうかだ。相手は関係ない。いつだって俺と神との関係が試されている。
「痩せたい。可愛くなりたい。顔が小さくなりたい」ずーっとそんなこと言っている。「ねぇ、お願い何でもするから教えて」と言ってくるけど、すぐに無理という言葉を吐き出す。昔からそういう人間に腹が立ってしまう。
 贅沢に食べまくることも悪。人の話を聞かない人間も悪。すぐに消極的な言葉を吐き捨てるような人間も悪。19歳の人間にそれを強要するのは情けないことなんだろうか?
 彼女は彼女なりに頑張っている。ただそれを見てあげればいい。やはり全ては俺の心が邪魔なのだ。
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 ある商人が、大きな売買をするとき、いちいち怖気づいてしまって、立ち止まってしまって失敗を繰り返したという。そこで、前もってよく考えておいて、考え抜いたら、あとは決して振り返ったり怖気づいたりすることなく、事前に決めた通りの売買だけをするようにしたら、大変上手くいくようになったという。
 山岡鉄舟はこの話を聞いて思うところがあり、それを剣に応用して大悟したと言っていたが、なるほど、俺にはなぜそれが重要だったのかわかる気がする。
 目の前のことに1回1回立ち止まって迷っていてはダメなのだ。事前に1度考えをまとめておいて、そしたらあとはもう考えない。その通りにする。後のことは何も気にしないようにする。1度考えを決めたら、あとはただ進むだけなのだ。つまり、恋に応用するなら、彼女の嫌なところが目に付いたとしても、自分の中で彼女を大切にすると決めたのであれば、ただそれのみを実践して他の瑣末なことに心を揺らさないようにするということだ。これが商売においても剣においても恋においても極意なのだ。悟りなのだ。

 肌のアレルギーよりも、IGA腎症よりも、人を愛せない方がずっと重篤な病気だ。彼女ほど、少食が必要な人はいない。小食どころか断食が必要になってくる。アレルギーにも腎臓の病気にもダイエットにも、そして精神にも19歳の落ち着かないバタバタした心にも、全てにおいて彼女ほど少食に適した人間はいない。
 色々言ってもすぐに面倒くさいとかだるいとすぐに言う。それどころかあんまりちゃんと聞きもしない。自分から何か方法を教えて! と言ってきながら、ちゃんと聞きもしない。聞く前からすぐぶつくさ言う。その度にイライラしてしまう。だから、病気も治んねーんだよと思ってしまう。
 これも事前に決意しておくべきだ。その場で立ち止まって1回1回考えて、彼女と関わるのはやめるべきか否か、彼女に食事の指導をするか否か決めておかねばならない。そうでないと、ことあるごとにいちいち心の波に惑わされるだけだ。彼女にはいくら小食を通して良くなってもらいたいと思っていても、無理なら頭から消すしかない。
 この方法を彼女に実行してもらおうと期待するから、ぶつくさ言われて裏切られたような気分になって、俺の方もぶつくさ言い出す。イライラしてしまう。事前に俺の方で答えを出しておく。それしかない。これは、全ての他人との関係において必要なことだろう。

 結局最後は祈るしかない。人は変えられない。「あるヨギの自叙伝」という本で、主人公が細すぎたため、師匠が「君はちょっと痩せすぎているね」と言い、念力を与えると、主人公の身体が20キロほど太ってしまったという話がある。とても信じられないけど、世の中にはこういう現象があるらしい。人間にはそういう力が隠されていてヒマラヤでは今もその力を解放するために多くの人が修行している。マッチョになる自分を想像して筋トレするのと、ただ機械的に筋トレするので、は、まるで効果が違ってくるという話も聞いたことがある。
 俺も自分の目指したい体格もあるし、彼女自身の体も何とかしてあげたい。俺が祈りの力に見覚めればら彼女を病苦から救えることができるかもしれない。何を言ってるのかわからないかもしれないけど、超能力に目覚めるしかないと思っている。

 信じられない話かもしれないが、今生きている日本人にだって、できている人はいる。少食の森美智代さんや麻雀の桜井さんは、「願ったことが何でもすぐに実現してしまう」といっていた。なぜかはわからないけど、ふと生活の中で夢想したことが、本当に起こってしまうという。桜井さんは自分の理想な女の人を思い浮かべたら、その人が本当に目の前に現れてしまったと言っていた。2人の共通点は少食ということだ。そして目に見えない何かと交信していることだ。そして2人とも「何でも考えたことが実現してしまうから、できるだけ願望はしないようにしている」とも言っていた。
 神と霊交することができれば、こんなことはが本当にできてしまうんだろう。本当に簡単に実現したように話していた。羨ましい限りだ。だが、誰もほとんど信じないだろう。偶然だと思うだろう。そしてどこか不快に思う人はもいることだろう。日本はこういう考えにアレルギーを持ちすぎている。こういう思想こそ、今の時代に最も必要なのではないだろうか?
 霊的修業を辿ることで、引き寄せの法則が実現してしまうという話はよく聞く。桜井さんは麻雀の人で、ヨガの欠片もなさそうな人なのに、こういうことが現れてしまうことに再現性を感じる。どこの方面から出発しようとしたとしても、麻雀という扉を開いて突き進んだ人も、最終的にはいヨガの仙人と同じところにたどり着く。

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 19歳の彼女は、毎朝起きるたびに、「足が痛い」「辛い」「バイト行きたくない」「学校休もうかな」とLINEを送ってくる。そんな言葉を朝いちばんに投げられる。これは思った以上に苦痛だ。誰も得しない。ネガティブなことを、たとえ些細なことでも口にするということは大罪だということを知らないらしい。知っている人は決して言わない。
 子育てはしたことないけど、もし自分が子育てする立場になったら!いい子供を育てあげられる自信はあった。
 基本的に子供は親を見て育つものである。どれだけ親が一生懸命指導したり、喧しくうるさく言ったところで、子供には響かない。子供はもっと親の純粋な部分を見て育つ。15歳年下の女の子と付き合うということは子育てと似たようなものだ。ああしろこうしろと、これを直せあれを直せと、口やかましく言うのではなくて、俺自身が確かな人間になって、常にいい人間であり続けることが、彼女をより良い人間に導けるのではないかと考えている。
 人は本当の想いを人に伝えようとしない。しかし口に出さなくても無言で一生懸命伝えようとする。必ず空間に出る。多くの人が何も語らないけど、無言で「それは違うよ」と空気で相手にメッセージを送る。しかし気づかない人がいる。このやり方がいいかどうかわからない。
 中村天風先生はヒマラヤの奥地でヨガの先生(カリアッパ氏)のもとで修行していた頃は、かなり頻繁にきつい言葉を言われたと言う。「お前は世界中を旅して勉強していたわりには頭が悪いな」「食事は生野菜を日に1食のみだ」「帰りたければ勝手に帰るがいい」とか、時にはあまりにも天風先生が消極的な発言ばかりしていたので、思いっきり頬をビンタされたこともあったと言う。
 ほかにも、「あるヨギの自叙伝」の中に出てくる主人公も師匠から「私は君の悪いところをはっきりと口に出して伝えていく」「もしそれが辛くて嫌になったらいつも私の場を離れなさい」と言って、誉めることはめったになく、叱ってばかりいたという。レオナルドダヴィンチも、相手の悪いところをそのままにして何も言わないのは非難しているのと一緒だと言っていた。
 口に出して説教していくか、無言で空気で伝えていくか、それともやはり俺の心の問題なので、俺と神の間の問題なので、俺自身がしっかり、本当に清く正しい真心でいれば解決するものなのか? 俺が清く正しく美しく生きて側に居れば、それが相手に伝染して自然に治るものなのか? ずっとこの辺りを考えてしまう。
 本当にコミュニケーションとは、自分と相手との二人の問題なのか? あるいは自分と周囲との関係なのか? それともコミュニケーションは一人の問題か? 一人か、あるいは、自分と神との間にしかコミュニケーションは存在しないじゃないだろうか?

 人間が成長するには、ただ静かにするしかない。心を静かにしていって、自分の心の奥底から聞こえてくる声を感知して、その声に耳を傾けてそのとおりにするしかない。心が静かでないと、この声を聞くことすらかなわない。この声を聞かないと、ただ他人の声に騙されたり、洗脳されたり、あるいはただぐちゃぐちゃになって情報の洪水の中で溺れてしまい、泳いでいるようで、溺れている状態だけが続いてしまうのだ。
 ただ、座ってじっとして、夜寝る前にふと自分の心の声に耳を澄ます習慣がある人だけが前に進むことができる。俺の頭のいい友達を観察していると、本人にその自覚はなくてもやっている。目の前の有償無償の出来事と自分の心の中心に据えている部分を格闘させて、しっくりするまで考えたり、感じたりしつつ、納得いくまでその問題に根を下ろしている。無意識だがね。
 こういうところがまるでない人間は、果たして、これから心を静かにして自分の本当の声を感じるいうことができるのか? そしてその習性を身につけることが出来るのか? 他人から言われなくても、自分で修正していくことが可能なのだろうか?
 そんなふうに変わってほしい、気づいてほしいとずっと戦っている。夫婦なんて、こんな戦いの連続だ。20年も30年もこんな戦いが続く。職場もそう。どちらもない俺に比べれば、皆さんの方がこの道の先輩だろう。経験も量も皆さんの方が進んでいるに違いない。なぜ俺がこんなこと偉そうにブツブツ言ってるのかわからない。

実習先の病院で『まったく働かない、本当に、まったく働かない作業療法士達がいた』という事実


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 理学療法士の実習ほどばかばかしい遊戯はない。誰も得をしない。多くの生徒が精神を病んでリタイアする。囚人と刑務官の関係のように、指導するものとされるものという二極がはっきりされると、ものの1日や2日で虐待が始まる。
 俺は常識というものを身につけられないまま大人になってしまった。今でも20歳の子ができるようなことができない。
 ある実習で、雪の日にドロドロでビチャビチャの靴のままリハビリ室に入っていったら、「何してんの!? 床がびしょびしょになってるよ!? 患者さんが滑って怪我したらどうすんの!? 君、そんなこともわからないの!?」と怒鳴られてしまったことがある。
 患者さん情報を、新しい紙に新しく記入するのが面倒くさかったから、もう用が済んだ患者さんの名前に斜線を入れて、その上に新しい患者さんの名前を書いて提出したときは、学校の担任に報告された。

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 まぁ今回の記事は、実習でやらかしたミスの話ではない。実習先の病院の作業療法士達が本当に全く何も働かないという恐ろしいものを目にしたことがあったので、その話だ。
 なぜこんなことを一生懸命書こうというのか? 世の中には毎日1日10時間以上立ちっぱなしで足のサロンパス代もバカにならない人がいる中で、全く何も働かなくても許される職場があるという事実がある。それはあまりにも恐ろしく、世の中に出ていかなければならない情報だと思うのだ。本当に1分も2分も働かないということは、すごいことだと思わないだろうか?
 基本的に理学療法士や作業療法士というものは通りすがりのサラリーマンでもできる仕事ではある。学校で難しいぶったこと3年習わされ、国家試験まで用意されているが、これはあまりにも簡単になられてしまうと自分達の権威が失われてしまうのを恐れるためである。だから実習に来た生徒を一生懸命いじめてリタイアに追い込むのである。

 実習先の病院で、作業療法士の女がいた。年は40歳くらい。いつも生理臭くて、気分が悪そうで、肛門をギュッと締めていなければ羊水が溢れ落ちてしまいそうなオバさんだった。不機嫌で、人間や世の中の嫌な部分しか見えていそうになかった。いつも何かに怒ってばかりいた。小柄で細くて蹴っ飛ばしたら簡単に3メートルはふっ飛びそうだった。この人は全く仕事をしなかった。例えではなく比喩ではなく、一日中全く仕事をしなかった。ずっとリハビリ室にこもって会議しているのである。会議というより悪口であるが。
 作業療法士は3人いて、残りの2人も似たような感じだから、説明は割愛する。この女が三匹いると思えばいい。この三匹がリハビリ室でずっとリーダーの悪口を言っているのである。
 リハビリ科は、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がそれぞれいるが、リーダーは理学療法士だった。リーダーはどんな人間かというと、40歳のハゲた飄々とした男である。非常に色が黒く、海が大好きで、子供を連れてよく海にばっか行っている。いつも大声でハイテンションで楽しくて愉快な人だった。185センチで体重も80キロあって大柄だった。仕事もこなすが、ジムで体を鍛えることや趣味のバレーボールの方がずっと楽しそうだった。基本的に頭が良くて物知りで色んな分野に精通していて、医学や政治経済、最近のコンピュータについてよく俺と議論した。理学療法の話しより日本と中国のIT機器の違いなどについてよく話し合った。何も知らないことがなさそうだった。いつも全ての仕事を抱えていた。患者さんへのおもてなしで、リハビリ室でカラオケ大会をやることになったが、選曲から機材の導入、全ての準備を一人でやってしまう人だった。
 しかし周りからはすこぶる悪評が絶えない人だった。こういったことは他人の仕事を奪っているとも言えなくもなく、ほとんどこのリーダーが全部やってしまうので、他の人は何もしないで座ってもいい空気が常にあった。カラオケだけでなくリハビリや全ての仕事に関して同じことが言えた。非常に行動力があって、色黒でやんちゃ坊主がそのまま大きくなったような感じだった。いつも自分が職場の大黒柱であり、自分がすべてを廻しているという顔をしていた。アメリカンジョークみたいなことを言って、ユーモアも得意ですみたいな顔をしていた。しかしリーダーのジョークで誰かが笑ったのを一度も見たことはなかった。それでもリーダーは毎日つまらないアメリカンジョークを繰り返していた。
 ここの職場はいつもリーダーの悪口ばかりだった。
 リハビリスタッフは10人ぐらいいた、理学療法士が4人。作業療法士が3人。言語聴覚士が3人だった。事務のおばさんも1人いる。それぞれにリハビリ室が与えられているので、全部で3つリハビリ室があることになる。基本的には理学療法士のリハビリ室が一番偉くて大きくて中心的な場ではあった。

 問題なのは、3人のアラフォー作業療法士達だ。ある日、こんなことがあった。リーダーがエアーガンを職場に持ってきて、それを理学療法のリハビリ室に飾っていた。リーダー不在時に、それを見た作業療法の女が、「患者さんの刺激になって困るので持ち帰ってください」と赤い文字で書かれた紙をエアーガンに貼って、リーダーのロッカーの中に放り込んでいた。
 そして、翌日、リーダーは今度はスターウォーズのライトセーバーを持ってきて、またリハビリ室に置いていた。これは別に作業療法士の女に喧嘩売っているわけではなくて、本当にそういうことがわからない人だったのだ。空気が読めない人だった。別に俺はリハビリ室にエアーガンが置いてあったり、ライトセーバーが置いてあっても構わない。大砲が二つ三つ置いてあったって気にしないが、作業療法士の女が嫌がることぐらいは想像できた。患者さんを平気で理由に使うことの方が悪質に思えた。いつも生理臭い不機嫌な顔をして仕事をされる方がよほど嫌だった。
 昨日、当てつけのように悪意のこもった赤い文字で書かれたばかりなのに、なんでこの人は気づかないんだろう? と不思議でしょうがなかった。なぜエアーガンがダメで、ライトセーバーならいいと思ったんだろう? ていうか、ライトセーバーは一体何の為に持ってきたんだろう?
「しまるこくん、これめっちゃかっこよくない?」
「かっこいいっすね」
「これリハ室に飾っちゃおうか?」
「そっすね!」
 俺はまた作業療法士達が荒れることはわかっていたけど、ライトセーバーの誕生に賛成した。何の為にもってくるのかはわからなかったけど、ライトセーバーがリハビリ室に飾られてあるのは面白かった。
 リーダーはよく訪問のリハビリの外回りが多いので、リハビリ室にいないことが多かった。
 リーダーがいないくなると、作業療法士達は自分達の小さな基地から飛び出してきて、大きくてお茶会のしがいがある理学療法士のリハビリ室へ、両手で抱えきれない程のお茶とお菓子を持ってやってきた。
「ねえ、これなに?」
「わかんなーい」
「スター・ウォーズ?」
「なんであのハゲ、毎日こんなの持ってくんの?」
「バカなんじゃない?」
 そう言って一人の作業療法士がライトセーバーを手に持って振ったりしていた。そしてソードの柄の部分にボタンを押すと「テゥルー! テゥルー!」と変な音がして、等身がキラキラ赤く光った。
 そして、なんと、ライトセーバーを分解し始めた。
「盗聴器は入ってないみたい」
「そう、ならよかった」
(盗聴器……?)
 俺が不思議な言葉に戸惑っていると、側にいた理学療法士の先生が、
「ああ、しまるこ君は知らないだろうけどね。リーダーが持ってくる物には盗聴器やカメラが仕掛けられてることがあるんだよ」
「え?」
「いや、ホントなんだよ。リーダーもああ見えて自分がどう思われているか気になるようで、自分のいないところでみんなが話している様子を盗聴しようとするんだよ」
「え? やばくないすか? なんですかそれ」
「ずっと前にね、リーダーが変なおもちゃを持ってきてリハ室に放置したんだけど、なんとなく僕達がそれを分解したみたら、盗聴器らしきものが発見されたんだ。でも『らしい』だけで完全に盗聴器だと判明したわけじゃないんだよね。僕達もあまりおもちゃのことは詳しくわからないしね。問い詰めるのもあれだし、リーダーは口が上手いから言い逃れも用意しているだろうしね」
「へぇ……」
 そして、作業療法士達はライトセーバーにまた赤いペン文字で『患者さんが嫌がっているので持ち帰ってください』と書き残し、リーダーのロッカーの中に放り込んでいた(どこにも患者さんはいなかったが)。

 リハビリという仕事の面白いところは、病院によるのだが、朝の10時から仕事が開始されるところだ。9時にみんな集まって掃除をして、9時30分過ぎに朝礼や会議をして、10時になってやっと仕事をやり出す。途中、1時間の昼休憩を挟み、昼の15時には仕事を終える。15時になると、その日のリハビリ記録をカルテに書く。日報などの事務仕事もこの時間に行う。つまり実労働時間は3時間くらいだろうか?
 とてもゆっくりべらべら話しながらリハビリ室でカルテを書く。15時から16時半過ぎまではずっとそんな調子だった。ずっとテレビの話や釣りの話をしながら事務仕事をやっている。理学療法の話をすることはなかった。大体15分もあれば片付く仕事だった。16時40分にはもう着替えを済ませ、17時には戸締りをして帰る。
 12時から13時は昼休憩なので、みんなリハビリ室のマッサージ用のベッドに仲良く並んで寝る。食堂でみんなでラーメンやハンバーグ定食を食べる、みんなで一日中一緒にダラダラしてダラダラ食ってダラダラ寝るということをしている。
 理学療法士の話は禁忌。競争意識はご法度。病原菌やウイルスよりも、「覇気」や「高い意識」を持ち込む方がよくないとされている。これはどこの病院でも同じだ。理学療法士の職場は理学療法についての話し合いがいっぱいされるんだろうと思うかもしれないが、そんなことはない。禁忌なのだ。お互い、つまらないことには触れずにダラダラや りましょうという鉄の暗黙が交わされている。しかし実習生相手にはとことん自分の知識をひけらかして罵倒する。実習中止に追い込もうとする。理学療法士が増えると自分の賃金や専門性が薄くなってくるからである。そのくせ、お互いが先生と呼び合っている。不思議な職業だ。
 しかし職場内結婚はとても多い。資格持ちだし、母体は病院だから安定しているように感じるんだろう。どう見ても仕事ぶりはカッコ悪いとしか思えないが、お互い様ということで済ましているのだろうか? 二人で適当な仕事をして、それを見せて見せあって、家に帰って何を話すというのだろう?
 病院によるが、ここの病院の実労働はだいたい3時間だった。病室からまた病室へ、前から誰かに押されているかのように非常にゆっくり歩くので、移動時間を抜かせば1日2時間しか働いていないかもしれない。理学療法士を目指す若者が増えてきているようだが、このような病院に勤めると楽ができる。俺もここの病院に就職したかったけど、実習生なのに、朝、一番最後にやってきて、掃除に間に合わなかったり、昼休みは車の中でタバコを吸っていたり、そんなことばかりしていたら、ある日関係ない事務のババアに呼び出されて物凄い剣幕で怒られてしまって、とても就職したいなんて言えなくなってしまった。


 さて、なぜ作業療法士のおばさん達は働かないのか?
 まず、リーダーが先程のような性格の通り、非常に舐められている。リーダーに怒られることを屁とも思っていない。
 職務上の性格からして無駄に専門職風であり、個人の裁量がかなり許されている。今日はこの患者さんはやらない方がいいと言えばそうなる。この人はこの前に筋力トレーニングをやったので、今日は休ませた方がいいとかの理由で許される。
 また、それぞれのリハビリ室の中で固まって何をしているのかよく分からないので、一つ科や階層が違えば、外部は何も言えない空気があった。
 そして病院側もあまりリハビリの成果を期待していないというところだ。基本的にリハビリ科というのはどこの病院も赤字かトントンである。病院は基本的に薬で稼いでいる。透析をやっている病院は非常に儲かる。
 しかし、もちろん決められた単位数というものがある、リハビリというものは、基本的に1日に18単位やらなければならないという決まりがある。これは病院によって変わるかもしれない。16単位のところもあれば17単位もところもあるが、大体それぐらいやらなければいけない。1単位30分なので7時間はやらなきゃいけない計算になるのだが、作業療法士達は7時間どころか7分もやっていない。
 リーダーはもちろん上から「単位が足りてないよ」と怒られるので、「単位が足りないからやってください」と作業療法士達にお説教をするのだが、作業療法士達は言うことを聞かない。不機嫌な顔をしてシカトするだけである。
 どれだけ腹を立てても作業療法士達は直接リーダーと話し合うことはしない。リーダーの1つ上の部長クラスの人間に抗議しに行くのである。「部長聞いてください! リーダーってば、子供を連れて海に遊びに急に休んだりするんですよ! リーダーがこんなのだから、私達とても仕事できません!」などと言ったりする。この人達に比べればリーダーの方がずっと働いている。他の病院の理学療法士よりは明らかに働いていないけど、少なくともこのおばさん達よりずっと働いている。自分は全く働かないくせに、よく回る口だった。よく正義を盾にできるものだなと思った。部長らしき人もおばさん達に言い負かされて「うん、うん、そうですね、わかりますけどね、はぁ……」といった感じで押し負けていた。
 これはどこの会社でも言えることだけど、この手の口うるさい愚痴愚痴した女が束になると恐ろしい力を持つ。上の権限を持つ人でもなかなか怒れなかったりする。スーパーのパートのおばちゃん達が束になってストライキを起こしているのを想像してくれればいい。孫さんだったらどうするんだろう?
 リーダーは快活そうに見えて、自分がいない所で何を話されているのかとても気にしていた。実習生は一日の終わりにバイザーと反省会をする。俺のバイザーはリーダーだったので、いつもリーダーと話し合いをしていた。もちろん実習のフィードバックだから、理学療法について話し合うための時間なのだが、理学療法の話などしたことはなかった。リーダーはいつも「しまるこ君、みんな俺のことなんか言ってなかった?」と聞いてきた。そして俺も話せることは話した。俺は暇だったから余計職場を荒らすような働きをした。そして他の先生達がリーダーの悪口を言っているときは一緒にヘラヘラ悪口を言っていた。
 作業療法士のババア達は、俺にも態度が強かった。俺がリーダーの後をついてばかりいたからだろうか? 作業療法士のババアにリハビリのことで質問しなければならないことがあって、質問したら、「○○検査法がわからない? そんなの調べればネットでもどこでもすぐに見つかる事だから、調べもしないことを聞いてくるんですね〜」と言われた。なんでこういう言い方するんだろうと思った。そう思ったなら、「調べてから質問しなくてはいけませんよ」と言えばいいだけだ。わざわざ棘を装飾する必要はない。まぁ、確かに全く調べないで質問したけど(笑)
 こういうところがこの人の独身たる理由なんだろうと思った。悪意を振り上げても構わない人間が目の前にいれば、積極的に悪意ぶつける。可愛くない人間だ。人間は可愛ければ大抵はうまくいくというのに。
 この人達の家に帰ってからの生活も想像できた。こたつでみかん食ってケツをポリポリ掻きながらアメトークを見ているんだろう。そして急に、この先私はどうなるんだろう? と老後の不安が押し寄せてきて、それでも結婚しないメリットを一つ一つ頭で反芻して安心付けている。アメトークを見ながら、そんなことを考えていると、ピンポンとベルが鳴って訪問のNHKがやってきて、「私テレビなんて持ってませんから!!」と、キイキイ音を立てる。やはり悪意をぶつけられそうなチャンスがあればぶつけにいく。ストライカーだ。仕事では何も稼がないけど。

 リーダーは普段あまり怒らなかったが、自分を通り越えて上層部にクレームをされることには怒っていた。
「自分がいないところでそういう話し合いをするのはやめてください! 組織としての体が成り立っていません! 何かあったら自分に言ってください!」
 毎日のように作業療法士達は上層部にクレームを言いに行き、そして上層部から注意を受けたリーダーは朝礼で部下達を叱っていた。朝礼は毎朝こんな感じだった。怒られても、作業療法士達は不満な顔をして黙っていた。
 リーダーが訪問に出ていった数分後に、作業療法士達が理学療法のリハビリ室へやってきた。わざわざここまでくるのは、大きなテーブルがあってお菓子を広げやすいからだ。
「なんで私が怒られなきゃいけないのよ! おかしいよね!!」
「何か言いたいことがあるなら俺に言えっていうけどさ、お前に文句があるんだよ! 本人に言えるわけねーだろ! だから私達は上の人間に言ったのに! 馬鹿じゃないのあいつ?」
「いいよいいよそんなの止めて、山本君もこっち来てお菓子食べなよ〜」
「は、はぁ……」
近くにいた25歳の若い理学療法士までも巻き込む。もちろん仕事中だ。
 この人達は他人まで巻き込もうとする。若い理学療法士も新人だから首を横には触れない。こうやって負が連鎖していく。悪い職場が形成されていく。俺は「座りなよ」と声をかけてもらえないから、仕方なく遠くの方で掃除をしながら聞き耳を立てていた。
 気づけば事務の女もひょっこり座っていた。そうやって次々と集まり、リハビリ室では8名くらいが晩餐会をしていた。まるであの有名な絵画のような構図だった。
「そういえば、冷蔵庫にスイカあったよねー?」
「今度のバーベキューみんな行く?」
「行くー!」
「リハ科だけなんですよね?」
「総務の宮下ちゃんと、レントゲン技師の河本ちゃんもリーダーが声かけたみたいよ」
「はぁ……!?」
 名前に挙がった2人は、どちらも学校を出たばかりの22歳の女の子だった。
「なんで!? おかしくない? なんでその子達だけ!? いっぱい人いんのに、なんでその子達だけ誘うの!?」
「B練の斉藤さんにあれだけいつもお世話になってるのに、斉藤さんは誘わないわけ?」
「斉藤さん、男だしねぇ……(笑)」
「マジでうけるんだけど! これだけ色んな人達がいる中でさ、若くて可愛い女の子2人だけを誘うってすごくない? 本当やり方が下手っていうか、狙いバレバレじゃん! 誘いたいならもっとうまく誘えよ!(笑) マジで心臓強すぎ! 他の科の人達も誘った上でその2人を誘うならわかるよ? その2人だけを誘うって頭おかしいんじゃないの??(笑) 一体なぜ? どういう経緯でこの2人だけを誘ったんですかって聞かれたら、あいつなんて答えんの?」
「ていうか、本来これリハビリ科だけのBBQじゃん。私達に何の断りもなく他の科の人を誘うことが既におかしくね?」
「せめてさぁ……、自分とその2人の子達だけでご飯食べに行くんならわかるけど、私達もいるんだよ?? 私達がいる前で口説こうとしてんの??(笑)」
「リーダーもう40でしょ? 相手にされるわけないじゃん」
「いやいや、あの人まだイケると思ってるよ? 身体めっちゃ鍛えてるからねぇ、AVみたいな身体してるよね。一生現役ですみたいな身体してホントムリ」
「あの身体見てるだけでヤラれてる気分になるよね」
「休憩中もさぁ、このクソ暑い中にずっとベランダのハンモックで揺れてるんだよ?」
「あれホントウケるよねー」
「あのハンモック超邪魔」
「日焼けしたいんだろうねぇ、あれでしょ? オラオラ系目指してるんでしょ? 日サロ行けよ」
「見てるだけで暑いよね」
「あー、この会話も盗聴器で聞かれてんじゃねー?」
「ギャハハハハ! 別によくね?」
「おーい、ハゲ聴いてっか〜〜?」
「「「ギャハハハハ!!!」」」

 

 実習の2ヶ月間。いつもいつもこんな光景が流れていた。

 

 

 

2019年5月の生活費は97018円でした

家賃   30000

通信費  5414

Wi-Fi   3684   (WiMAX)

スマホ   1730      (格安SIM)

食費   3102

「クリエイト」

222  塩昆布 豆腐

104 納豆2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

144 ごま塩2つ

84  納豆2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

892 ごま油 豆腐2パック

326 塩昆布 豆腐2パック納豆2パック

250 塩昆布 豆腐2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

84   納豆2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

166 豆腐2パック納豆2パック

「セブン」

雪見大福2個 203

ドトール        7000

アダルト動画      980

電気          1126
風呂(スポーツジム)  6000

YouTubeプレミアム   1180

はてなブログ      1008

ガソリン        6261 

 

計           62229

 

↓以下、娯楽費

カインズ シャーペンの芯 158

万年筆コクーンインク   3557

OA用紙250枚       453

万年筆カスタム823     25349

インク          1450

枕               3980

 

計            34789

 

すべての合計 97018円


 月に6万円以内で生活すると言いながらこんな金額になってしまった。先月は64000円くらいだったので、続けて達成できなかった。もう上級ミニマリストは名乗れないかもしれない。

 今回は嗜好品を買ってしまうことが多かった。俺は基本的に文字を書くのが好きなもんで、1日に2時間くらい書道をやって遊んでいる。今まで鉛筆で遊んでいたけど、万年筆に手を出してみたくなってしまった。近くの文房具屋さんで3000円の万年筆を買ったら、これが割と面白かったので、さらに高い25000円するやつを買ってしまった。
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 まだ万年筆は不慣れなので鉛筆の方が上手くかけている気がする。

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 そして、たまたまカインズのホームセンターで遊んでいたら、とてもいい枕があったので、低反発の頭が柔らかく沈み込む枕は大事だと思って、つい通販で枕も買ってしまった。特に寝心地は変わらない。急に枕の高さが高くなってしまったので却って眠りにくいように感じている。しかしこれは試してみなきゃわからないことだからしょうがない。これからの人生の買物で、痛手を伴わない出費だけで終わらせられるとは思っていない。あと50回ぐらいはこんな買物が待ち受けていることだろう。

 食費はまあ、こんなもんだろうか。貰い物の野菜や、50円のまとめて買ってあるキャベツに、ごま油と豆腐と塩昆布をかけて食べている。たまに納豆パスタも食べている。基本的にはいつも豆腐キャベツだけで毎日過ごしている。結構大盛りだけどね。それを1日1度か2度食べている。お腹が空きまくったときは納豆パスタ。あるいは納豆の単品。基本的には、毎日豆腐キャベツ豆腐キャベツ豆腐キャベツ。一度、雪見大福を2パック買って食べた。2パックだから、白いお餅が4つだ。美味しかった。

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 嗜好品を抜かせば62229円だ。それでもオーバーしている。少しガソリン代が多くかかった。まとめて給油したからね。ドトールはフリーランスには欠かせない職場だ。仕方ない。いくら一番安いカフェでも毎日行けば7000円かかるけど仕方ない。

33歳の俺が最近できた19歳の彼女を題材にして愛について本気出して考えてみた

 Mr.Childrenの桜井さんのように、詩人のような顔をしながら愛を探求してきた。
 山岡鉄舟は、剣の奥義は見えない箱の中身を全て調べ尽くすことのようなものだと言っていた。
 実習先の病院の先生が、治療よりも評価の方が大事だと言っていた。評価さえしっかりできていれば治療を間違うことはない。まずは相手をしっかり観察しなさいと言っていた。
 出会い系も同じで、相手の心の中を解剖することが大事だ。デートコースやらテクニックや身振り手振りや相槌やメンタリズムや、それらは枝葉末節の俗事である。
 マザーテレサは身近な人だけを愛せばいいと言った。自分のすぐ近くにいる家族や友人を愛しなさいと言った。目の前の人だけを愛しなさいと言った。我々はいつも遠くにいる知らない誰かには優しくなれるけど、毎日顔を合わす人には優しくなれない。そして今回は仕方ない、次に新しく出会う人には優しくしようと考える。
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 思えば昔から新品が好きだった。子供の頃から新品の商品ばかり買っていた。パソコンにしろタブレットにしろスマホにしろ、洋服もバイクも新品が好きだった。処女が好きだった。
 昔の俺だったら、今の彼女と付き合おうとは思わなかっただろう。彼女は腎臓に持病を持っている。肌にもアレルギーがあって、化粧もできない。しかし、19歳という年齢のせいか化粧していなくてもかわいい。
 なぜ付き合うのか? 可愛いから? 19歳だから? 声が可愛いから? この可愛い声も扁桃腺の摘出によりなくなってしまうかもしれないらしい。
 出会い系には死ぬほど女がいる。もっといい物件はいくらでもあるだろう。33歳の俺がどれだけ相手にされるか知らないけど、もっと健康な人はいくらでもいる。

 この子は口も悪い。初対面からタメ口だった。どうやったら15歳年上の人にタメ口で話そうと思えるんだろうか? 一番腹が立ったのは、急に深夜に電話してきてずっと無言でいたことだ。何か声をかけてもずっと無反応だった。そしてそのまま無言でいると、「ねぇ……何か話して……」と言ってくる。立派なメンヘラだ。お前が急に夜遅くに電話かけてきたんだろ? 自分で話題を用意しろと思う。
 医者に激しい運動を禁じられている。果たしてセックスもできるかどうかよくわからない。『うんこなう』と言うLINEを送ってくる。これもすごくがっかりさせられる。
 不思議なことに、今回の彼女もB型だった。俺は今まで5人付き合ったが、1人がO型で、それ以外は全員B型だった。そして出会い系で20人ぐらいヤってきたけど、8割以上がB型だ。A型の女の方が押しに弱そうなものだけどね。ちなみに俺はA型で、本来A型とB型は相性が悪いはずなのに、こういうことも起こる。 血液型の性格分析はそこそこ信じている。

 付き合う時は自然に付き合うものだと、いつも思う。自分の過去を省みても周りを見ても思うことだ。いくらお互いが気になっても、行動しても、なぜか噛み合わずに付き合えずに終わってしまうことがある。そしてどこがいいのかよくわからない人と付き合ってしまう。こういうケースの方が案外多いのではないだろうか。
 イケメンが可愛い子を連れているとは限らない。むしろ稀のような気がする。こういうことを運命というのだろうか? よくわからないが、なんとなく背後の大きな力に引き寄せられていくのを感じる。そういう意味で言えば、全ての恋愛は運命だ。自分の力で本当に恋愛なんて成立するのだろうか?
 俺の運命の定義というのは、「相手の中に自分を見つけ、相手もオレの中に自分を見つける」というものだった。同じ顔をしている夫婦やカップルがいる。それを運命だと思っていた。「僕らは似てるのかなぁ。それとも似てきたのかなぁ」というMr.Childrenの歌詞はこれを指している。今のところ、俺は彼女の中に自分を見つけていないけど、彼女はどうだろうか?

 相手の一番奥の心を見抜くのが愛で、それを実践する! と言っておきながら、扁桃腺のことを気付けなかった。
「ねー、声が高い人と低い人どっちが好き?」
「高い人」
「そっか」
「何?」
「あたしの声好きって言ってくれたよね?」
「うん」
「そっか」
「何?」
「何でもない」
「○○ちゃんの声かわいいよ!」
「…………」
扁桃腺摘出するから声変わるかもしれないんだって」
(ほえ?)

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 好きな仕事をするよりも、今やってる仕事を好きになれという言葉がある。俺はいつも健康な可愛い子を落とそうと一生懸命だった。そしてそれはいつも腕を伸ばして掴もうとするけど虚空に消えた。
 けど、どうだろう? 相手が俺を求めている場合、俺がその人を好きになってしまえば簡単に付き合えるのでは? ブスだろうが病気だろうが俺の気持ち一つだ。全ての人間から、その人の良いところを見出して、好きになる。妥協ではない。本当に好きになる。これが愛なのだろうか?
 ゴッホゴーギャンが貧乏なのに移住先でどこでもモテていたのは、すべての自然物や人間の中から真実を見出すという真の芸術家の眼を持っていたからではないか? その人の本当の部分を見出して、そこを見つめていると、相手は自分を好きになる。そして自分も相手を好きになる。それが愛というもののような気がしているが。

 愛は才能か技術か。作為的なものだと言い切った人もいる。確かに俺のここまでの理屈をまとめると、愛は「見出す」という作為的なものを言っているかもしれない。つまり愛は技術かもしれない。
 彼女はとても俺を求めている。メンヘラで寂しがり屋で学校に友達がいないので1日に50通LINEを送ってくる。
 俺は目の前の女の子から愛を見いだせるようになったから、この子と付き合えるようになったのか? それとも妥協か? それとも顔が可愛いから付き合おうと思ったのか? それが未だにあんまりよくわかっていない。
やっぱり顔がブスだったら付き合っちゃいないとは思う、顔は好きだ。小柄で全体のシルエットも可愛い。
 ある天才漫画家が「恋愛も結婚も顔で選びなさい」と言っていた。これは俺もそう思っている。漫画家ほど人の顔を研究する仕事もないだろう。人間の全ては顔に表れる。その人の現在の心的態度だけでなく、これまでの生き様の全てが表れる。つまり人間はいつも全てを公にしながら生きている。一つの秘密を守ることができない状態で街を歩いている。
 俺が愛せるようになったわけじゃない。この子が純粋だからだ。子犬みたいにくっついてくる。「うんこなう」とか言わなくてもいいLINEを送ってくる。全身にサロンパスを貼って、痛い辛いと、すぐに消去的な言葉を口にする。俺がタイに亡命したいと言うと、「バイバーイ!」「さよならー!」と古くてイライラする返しをしてくる。だけど、心の底では俺と本気で繋がろうとしているのが痛いほど伝わってくる。今まで出会った出会い系の女は打算的で、受け身で、出会い系という他人行儀の空気がいつも付き纏った。この子のように、壁を飛び越えてきてくれるパワーを感じることはなかった。そういう意味で言えば、俺は受け身だ。あれほど受け身な女を嫌っておいてこの子のパワーに甘えている。
 この子のパワーの源は愛ではなく、寂しさからきていると思う。ただの依存かもしれない。だがそんなことはどうでもいい。人が本当に人を愛するというのはほぼ不可能だ。ある心理学者は、母親が子を想う気持ち以外に愛は存在しないと言っていた。とにかく修行と研鑽を積んで、マザー・テレサやイエスのような聖人クラスにならなければ、本当の意味で人を愛すことはできやしない。ほぼ全てのカップルがなんらかの利害や依存関係にある。
 そうはいっても、ここまで本気でぶつかってきてくれた子はいない。この子が俺にぶつかってきてくれたから、俺もそれにつられているに過ぎない。まあ、よくわかんない。よくわからなくなってきたからもうすぐ終わりにする。ちなみに今も出会い系は並行してやっている。昨日も24歳のアパレル店員とマッチングした。

 重篤な持病を持っている人は、自分から身を引いてしまうことが多い。しかしこの子は違う。そんな自分を受け入れてほしいとも言ってこない。ただ病気の事実だけを伝えて、あとは飄々としている。俺に嫌われることを怖がっているけど、ただ飄々としている。19歳らしく楽しくデートしたいと思っている。
 こんな体験は初めてだ。神が俺に用意したステージか? この子と向き合って、もっと人を愛せるようになれと言っているのか? 理学療法士という仕事柄か、病気や死の香りがする人ばかりが周りにいる。これも、こういう人達を通してたくさん考えろということか?
 仕事は今出来る仕事をやるしかない。ブログも今書けるものを書くしかない。恋愛も今目の前にいる人を愛すものなのか? マザーテレサは目の前の人を愛しなさいと言った。俺はなんなんだ? この子は俺の勉強のサンプルか?
 神は、出会い系で遊びまくった俺に、こんな女の子をぶつけることで、よくあるベタな泣ける恋愛ストーリーというやつをやらせたいのか? セカチューとは無縁な人間だと思ってたけどな。だとしたら配役を間違えている。俺よりずっと忙しいちんこがいる。
 ちなみにまだ彼女と出会ってから1週間も経っていない。馬鹿が! 考えるのはえーよ! と思うかもしれないが、 今書けるものは今書くしかないのだ。今俺は彼女を題材にして愛について本気になって考えてしまったので、それを書くしかないのだ。
 俺だって誰だっていいわけじゃない。何かが絡まって、お互いが今必要としている。依存でもなく妥協でもなく、愛だとははっきり言えはしないけどね。

シバターと俺とみんなと川崎事件


シバターと俺とみんなと川崎事件

 シバター氏は川崎事件のような51歳の男は定期的に現れてしまう。それはいくら社会保障やお金や愛で固めたとしても、無関係に発生する「人間のバグ」だと言う。我々一般の人間とは分厚い壁があると考えている。厄災みたいなものだと言う。不可避だと言う。
 俺はシバターのファンだけど、シバター氏の中にも狂気が紛れ込んでるのを感じる。彼がYoutuberとして成功していなかったら、まず普通の会社で普通に勤めて一生を終わらせることはできなかったろう。実際に彼は辞めている。そしてニコ生時代は今よりもずっとひどい鬱屈したネットヤクザだったという。鬱屈して、家族や親戚からも忌み嫌われて、彼女も出来ず、さすがに無差別大量殺人はしないだろうけど犯罪者になっていた可能性はある男だ。松本人志も、「もし自分が芸人として大成していなかったら、犯罪者になっていたでしょうね」とあるインタビューで言っていた。なんにせよ、今よりも遥かに人を憎んで生活していたことだろう。

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 つい最近、シバターは徹底的にジョーブログを叩き下ろす動画を上げた。「俺は本当に嫌いなYouTuberは3人しかいない。ジョーブログとMEGWIN TVとタケヤキ翔だけだ」と言っていた。素晴らしい趣味だ。俺も同じだ。この選出のセンスがシバターの光るところだ。
 ジョーブログが、渋谷の交差点でベッドを置いて寝るとか訳の分からない動画を上げて警察に連行された。これに対してシバターが、「おいジョーブログ! ほんっっとつまんねえなぁお前は! つまんねーし人に迷惑かけてるだけだし、長年YouTuberやってて、そういう動画を撮ったらどうなるかも予想がつかんねーんか? ほんっっとバカだなぁおめーはぁ! いや、いいよ!? もしそれがお前のやりたいことだったら別にいいよ!? やりたいことをやるのがYouTuberだもんなぁッ! それがお前の信念だもんなぁ! もしそれがお前の信念ならなぁ、それをやり続けろよ! 胸を張っていろよ! でもお前の翌日の行動はなんだ?? すぐに動画削除して、次の日には全然カンケーねぇ動画上げてたよなぁ!? 渋谷でゴミ拾いの動画だっけか? 汚れた自分のイメージを一生懸命に払拭しようとこざかしい真似してたよなぁ!? ジョーブログ! やりたいことをやるんじゃなかったのかよ!? 完全に人の目気にしてるじゃねーか! やりたいこと貫きますみたいな格好で、若者の新しい生き様を率先して表現するスタイルなんじゃねーのかよ!? だったら動画も消さずに、自分のやりたい動画を上げ続けろよ! 渋谷のスクランブル交差点でベッドで寝続けろよ! 次はダブルベッドで行けよ!! だからお前はダメなんだよ! 小物なんだよ! お前は自分じゃ若いカリスマだと思ってるかもしんねーけど、中途半端の骨無しクラゲなんだよ!!」
 
 まぁ大体こんな感じのことを言っていた。これは頑張って頭をひねって一生懸命相手が傷つく言葉を選んでいる。ジョーブログのアイデンティティが「若いカリスマとしてやりたいことをやる俺」にあるのを見抜き、敢えてそこをしつこく攻撃した。優れた観察力を遺憾なく発揮して、ジョーブログが一番傷つく言葉を選んだ。ジョーブログの精神の破壊を目的としている。そしてそれを登録者100万を越える大海に投げ込んで、多くの波紋を引き起こした。シバターの意見に共感して、ジョーブログが嫌いになった人もいるだろう。悪物にしか映らなくなった人もいるだろう。
 俺もよく同じことをする。このブログでも、芸能人や有名YouTuberを名指しで悪口を言ったり、匿名の人も、数え切れないほど悪口を言ってきた。
 ネットではいつも多くの人が喧嘩をしている。ひたすら喧嘩している。喧嘩と言っても子供のような可愛いものじゃない。一生懸命に相手を傷つけている。一番相手が傷つく言葉を探して相手の人格はもちろん計画や夢や希望までも否定する。誰が一番辛辣なことを言えるかという大喜利が行われている。
 ジョーブログのような人間ほどメンタルは弱い。ジョーブログのメンタルの弱さを考えると、シバターは精神的にジョーブログを殺しているのと変わらない。今回は半殺し程度だろうか。ジョーブログだから半殺しにしていいわけはない。口の暴力ならいいということはない。

 ネットの悪辣な罵倒によって心を壊してしまった人はいるだろう。川崎事件と大きさが違うか、それとも種類が違うか。それは分からない。川崎事件を非難する人は、本当にその身勝手な血が、一滴も自分に混じっていないと言えるだろうか?
 人間を精神的に殺すことは肉体的に殺すことと変わらない。であれば、ここに人間を一人殺している事実が生まれる。一人殺すのと十人殺すのとそんなに差があるだろうか? 有名人ならいいのか? 無関係ならいいのか? 子供ならいいのか? 大人ならダメのか? 俺は、ネットでうるさい奴も川崎の人も大した差はないと思っている。
 確かに川崎の人と我々には何か壁があるような感じはするけれども、そこまで厚い壁ではないと思っている。彼が社会保障だったり、友人や家族や愛やお金に恵まれていたら、こんな事件が起きたかどうかはわからない。わからないが、恐ろしいことに、面倒くさいからやらないという理由もある。もし押すだけで日本が爆発するというスイッチを国民全員が持たされたら、とてもたくさんの人がスイッチを押すだろう。誰の心の中にも、傷つけたい気持ちがある。殺したいという気持ちもある。どうせ殺すなら数を稼ぎたいという気持ちがある。我々と川崎の人は0と10の関係ではない。シバターが、あるいはみんなが、川崎の人を非難している時の態度は、まるで自分の中の恐ろしい呪われた血に対して格闘するようにゴチャゴチャ言っているように見えた。

 

 

出会い系で知り合った可愛い19歳の女の子が皮膚アレルギー持ちで、「少食にすれば治る」といっても空気が悪くなるだけで困っている

 このブログでは食品に関する様々な情報や、少食、断食について語ってきたが、最も肝心なのはそれを相手にどうやって実行してもらうかだ。
 自分から断食の世界に飛び込んでくる勇者なら話は容易いが、そういったものと無縁の食欲旺盛な19才の女の子をこちら側の世界に引き込むにはどうしたらいいのか困っている。
人は基本的に自分の知りたい情報しか聞こうとしない。結局自分の集めた知識だけを信じる。話を聞いても、自分の持っていた知識と被ったときにだけその情報の信憑性を確信するだけだ。
 最近懇意にしている女の子が皮膚アレルギー持ちで、それを治すにどうしたら考えている。
彼女は医者に「二度と治らない。あとは悪くなっていくだけ」と、ある意味死より恐ろしいことを宣告された。今は惰性で生きていると言っていた。アレルギーは最近になって発生したらしい。彼女はファッションが大好きで着物が好きできゃりーぱみゅぱみゅみたいな髪やメイクみたいなのにも憧れを持っていて、19歳はそういうのが一番好きな年頃だけど、その中でも更にその道を突き進んでいるようにみえた。しかし最近になって、口紅は塗れない、ファンデーションもあまり塗れないということになってしまったのだ。
 若い女の子はやたらと明るい口紅やピンクの口紅をつけてメイクを楽しんでいるがそれができなくなってしまった。高い着物を買う女の子なんているだろうか? なぜこの子にこんなことが起きてしまったのか。
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 彼女のLINEのアイコンも紅生姜みたいな口紅をつけて、メイクが死ぬほど好きなことは伝わってくる。リップも塗ってはいけないと言われたらしい。4000円の高いリップなら大丈夫かと思って試してみたらしいが、湿疹が出たとのことだ。
 「二度と治らない? そんなことはない。俺は医療系の仕事をしていて、そういうことはよく調べているけど、基本的に少食にすれば治らない病気なんてない。アレルギーも治ったっていう話はよく転がってる。ネットで検索すればいくらでも出てくるよ。特に甲田光雄先生の本はその事を詳しく書かれてあるよ。まずは玄米菜食にして、食生活を見直して、少食にすることだよ。そうすれば良くなっていく」
「玄米は鉄分を吸い取るらしいんですよねー。だからどっちもどっちらしいです。白米と玄米は」
「 白米はもともとが玄米だし、玄米の栄養素の97%削ぎ落とされたのが白米だから絶対に玄米の方がいい。食物繊維の量も違うしね。むしろ白米はあまり体に悪いから食べない方がいいよ。 食べ物はなるべく自然なものを食べるべきだよ」
「それだったら農薬塗れの野菜のほうが、あたし的に気になる(笑)」
 と返ってきた。
「あたしとしては農薬を使っていることの方が気になる。それをやるんだったら農薬なしの自然食品だけにしたいです。てもお金かかるしなぁ……」
 と言って、今できていない領域を超えて更に高いハードルを持ち出して悲嘆にくれていた。

 この子はよく食べる。何も気にせず三食モリモリ食べている。食べすぎといっていい。ピザも二枚頼んだけど俺の分まで食べていた。二枚とも、最後の一切れを申し分なく食べていた。
 製菓の専門学校に行ってるから、そこでもいっぱいお菓子を食べるはずだ。その中には色んな化学薬品もふんだんに使われているだろう。そしてスーパーやコンビニでトランス脂肪酸やpH調整剤や着色料、香料が含まれた様々な食品を買って食べるだろう。これはスーパーも悪いのだが、もちろん買う方より売る方の方がずっと悪いのだけど、なんとか知識をつけて乗り越えなければならない。
 そして牛乳が好きだという。牛乳も良くない。喘息を引き起こす。牛乳は体内で消化されずに血液の粘性を高めるだけだ。お菓子作りでいっぱい卵も牛乳も使うだろう。言えやしない。卵も牛乳もやめろなんて言えない。お菓子作りをやめろと言っているのと変わらない。

 色々説得を試みたが、あれは嫌い、これは好き、あれは食べられないと言う。
 実家暮らしでいつも親に作ってもらってるからあまり言えないそうだ。これはまぁわかる。だが問題が問題だ。アレルギーは克服しなければならない。医者に無理だと言われたからといって諦めることはない。ネットで検索すればアレルギーを克服した例なんていくらでも出てくる。俺も喘息を治したことがある。病気がちな人はそもそも精神が弱い。病気は精神が弱い人を寝床にして育つ。

 彼女はよく弱音を吐いた。つらいだるい。肩が痛い。足が痛い。サロンパス代がかかる。今日は学校行きたくない。サボろうかな。風呂上がりのストレッチ? 絶対続かない。面倒くさい。弱音を吐くことがどれだけの罪悪かということを彼女は知らない。弱音を一つ吐く度に運気をどれだけ遠ざけるか知らない。積極的な心と消極的な行動が人の心の中に二律背反しているけど、彼女は常に消極的な心の分量が多かった。不幸が押し寄せてくるのでない。自分から不幸のお椀を手を取って汁を啜っているのだ。

 ここではなぜ野菜と玄米だけの少食にすればアレルギーが治るかという話は割愛する。玄米菜食の少食をすれば治ると甲田先生が豪語しているから信じればいいのだ。治らなかったとしても何か困るだろうか? 期待を裏切られただけだ。たったそれだけのことだ。食費も高いものじゃない。むしろ安くなる。親にも言えば納得してくれるだろう。「ねえ、お母さん、アレルギーを治したいから玄米菜食を試してみたい」といって反対する親がいるだろうか?

 今、彼女ができることは少食にすることだろう。彼女は細めだけどよく食べる。あの店に行きたいこの店に行きたいと楽しそうに話す。俺も一緒について行って食べている。「天ぷらで揚げたビザのお店があるらしいです! 行ってみたくないですか??」と最近も言っていた。そんなとき、少食がどうとか言い出せるわけもない。
 彼女の中に、本当に玄米菜食の少食にすればアレルギーが治るという確信があれば実行するのだろうが、あまり真剣に聞いていない。俺の意見よりも医者や最新の栄養学を信じている。アレルギーはアレルゲンから発生するのでアレルゲンにだけ気をつけていればいいと思っている。ほとんど食べ物に気を使っていない。人間の身体は食べ物でできているのに。
 あまり俺の言葉を信じようとしないし、彼氏にそんな指導係みたいになってもらいたくもないんだろう。一緒に好きなものを食べて笑いたいんだろう。

 これは彼女だけではなく、母親に言っても同じ結果だった。

  • 私はヨーグルトを毎日食べているから大丈夫。
  • 朝食を抜くと元気が出ない。楽しみが減る。
  • そんなに別に長生きしたいと思ってない。
  • 米食べている人も病気になってる。
  • 菓子パンしか食べない後藤さん夫婦は90越えても庭仕事をしている。

 ほとんどの人は色んな理由をつけて実行しようとしない。そして親は大腸ガンになって手術した。
 相手の食生活を変えるには、相手の自発的な動機がなければ無理だ。強い自発的な動機があっても難しい。俺もよくくだらないものを買って食べている。
 「治らないアレルギー」と宣告されて、ろくに調べずに諦めてしまうのは早計過ぎる。俺も19歳の頃は一般的に流布されている知見は全て正しいと思い込んでいた。栄養のあるものをたくさん詰め込めば詰め込むほどドラクエの経験値みたいに成長していくものだと思っていた。
 しかし一番いいのは何も食べないことだ。断食によって身体組織の修正が開始される。「アレルギー 断食」で検索すればいくらでもそんな情報は出てくる。
 嫌われる覚悟をもって話さなければならない。だけど、なんとなくわかるのだ。断食ができる人とできない人がいる。人間は自分に都合のいいことしか信じようとしない。彼女は、「アレルギー 断食」をネットで調べ回っても、いちいち頭の中で否定しながら見ていくことだろう。それに、あまりとやかく言うと、一緒にご飯食べに行きたいと思われなくなるだろう。

あーーーーー!! めんどくせーーーーー!!
じゃあもういいよーーーーーー!!!
勝手にしろよおおおーーーーーー!!
 ネットで成功体験の記事を読んで、更に甲田先生の著作でその知識の裏付けをはっきりさせれば、全ての霧が晴れるはずだ。完全に少食の世界の住人になれるのだ。ああ、この過程を辿らせたい。19歳、食べたい盛りだけど、オシャレしたい盛りでもある。一生アレルギーでいいはずがない。まぁ、まだ知り合って1週間も経ってない。もう少し頃合いを見よう。

 デブも、病気がちの人も、メンタルだけでなく頭も弱い。情報を見極める力が弱い。いつも金がかかる方へ進む。キャリアスマホを使って月に8000円払っている。simフリースマホを勧めると、ここでもアレルギーを起こす。肉体の病気ではないのだ。自分の今いる世界から一歩も踏み出せないという病気なのだ。

 自分の世界だけで完結せず、他人と少食を共有させようとしてわかったことがある。甲田先生の偉大なところは、少食の効用を広めた事にあるのではなく、目の前の患者さんを励まして病気と戦う姿勢を抱かせたことだ。

 

 

俺が頭の悪い女にしてしまう態度は俺と落合陽一氏との関係を下位互換したものだった

 女について考えていると、亜紀のことをよく思い返す。亜紀との関係は最初は良好だった。友達と一緒に俺の家に遊びに来たこともある。
 大学生になって俺はすごく静かになった。いつもだんまりを決め込んでいて騒いだり心が揺らぐことは悪だと思っていて、一言だけ返事を返すと、また思い込みに耽った。みんなとカラオケに行ってもじっとしていた。別に俺は無視していた訳ではなく、ただ心の静けさの中にいなくてはいけないと思っていた。
 それが相手の求めているコミュニケーションではなく、みんなや亜紀のコミュニケーションの常識に当てはまらないということもわかっていた。ただこの道の先に俺の求める答えがあるような気がしていた。
 亜紀は肉づきが良くて少し太めだった。眼がトロンと溶けていた。散々顔面にチンコを押し付けられて、女の大事なものを溶かしてしまった顔をしていた。過去に闇を抱えていそうな眼だった。しかし妖艶だった。いつもどこか男を誘惑している眼だった。常識的で周りがよく見えてムードメーカーだったが、感情的でよく泣いていた。授業中も泣いていた。付き合ってる男と喧嘩ばかりしてよく泣いていた。可愛いので男にはモテた。
 亜紀はよく話す女だった。男女区別なくよく話していた。誰と話すときでも彼女の中で確立したコミュニケーション法で話していた。いつも話し方やテンションが決まっていて、亜紀と話す相手もその公式に準じて会話していたように思える。何が言いたいかというと、ノーマルな人間ということだ。極めてノーマルな人間が常識の中で常識的な会話をしている。それが正解だと信じて疑わない。世の中にはそれ以外のコミュニケーションで航海する人間がいることを知らない。
 亜紀はなぜ俺のことを嫌いになっていったのか? 亜紀のことを思い出すと、「しまるこくんって風俗好きそう〜」と、ドス黒い嫌味を含んだ顔と声でそう言われたことを思い出す。

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 ある日、大学の校舎内で亜紀とばったり会った。しっかりお互い顔を見合わせたけど、俺は亜紀をシカトした。嫌いだからシカトしたわけではない。知り合いと目があった。クラスメイトと偶然会った。俺の家に遊びに来たこともある女の子とすれ違った。それだけだ。挨拶しなければいけないという決まりはない。そのまま俺は普通に自分の進路を歩いた。亜紀は俺を見て反応を示していたが、俺が視線を戻して、これから通り過ぎますみたいな顔をして本当に通り過ぎていったから不思議そうな顔をしていた。というかびっくりしていた。怒ってさえいるようだった。
 そして再びまた同じ場所で偶然出会ったとき、俺はまたシカトをした。亜紀は一度俺にシカトされたから、今回もまたシカトされるんじゃないか? と不安な心持ちで俺を見ていた。それでも声をかけるべきか、あるいは俺が声をかけてくるのを待つべきか、迷った顔で俺を見ながらオドオドしていた。俺も亜紀と同じことを考えていたけど、オドオドするのはかっこ悪かったから、ごく自然に再びシカトした。
 この辺りから、加速度的に俺と亜紀の仲は悪くなっていった。仲が悪くなっていったが、俺は一切負の感情を外に出さなかった。ただ静かにしていた。何もしないでいた。それはつまり自分から亜紀に絶対話しかけないというものだった。つい挨拶をしないでいたら勝手に仲が悪くなってしまい、俺から関係の修繕も図ろうとしないということだ。亜紀が俺に悪感情を持っていることをわかった上で何もせず静かにしている。亜紀はこういう俺の態度が納得いかなかったらしい。「しまるこのクソ野郎。退学しろ。内定取り消しになれ」と顔に描かれていた。
 俺は亜紀以外にも5人ほどの女とこんな関係になったことがある。男ともある。
 俺は普段、かなり無口で過ごしていて、それが板についているキャラクターである。普段からほとんど口をきかずにいるので、亜紀と口をきかなかったとしても、それは自然な状態なのである。亜紀はそれが気に入らないようだった。
(キャラクターのせいなの? 嫌っているから話しかけてこないの? どっちなのかわからない! しまるこは私がどっちなのかわからないことを利用して私に話しかけずに済むようにしている……! そしてそれに安心している……!)
 と亜紀は思っただろう。亜紀は、自分ばかりが心を波立たせていて自分ばかりが不快な目にあっていると思っただろう。誰にせよ、自分の方から話しかけなければ絶対に話しかけてこない人間など、大嫌いだろう。しかも無口キャラを利用して話しかけなくても済むように計算しているとしたら……? 
 しかも最初の原因はシカトをしたこいつにある。シカトしたあげく、仲直りのタイミングも掴めず、掴もうともせず、普通の会話すらせず、この険悪なムードのままやり過ごそうとするのである。おそらく卒業まで続くだろう。亜紀はずっと腹が立っているけど、俺はまったく無関心そうなのである。亜紀と口を聞かなくても全く構わないという顔をしている。
 どんなに馬鹿な人間でもこういうことだけは勘づく。自分と絶対に話そうとしない人間をしっかり見抜く。そしてそれを自分が気づいたことが相手に気づかれているということにも気づく。

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 では亜紀から話しかけられたとき、俺はどうしていたのか? 俺の良いところか悪いところか分からないけど、俺は亜紀に、しっかり満面の笑みをして、心から善意をこめて返事をしていた。今までの戦いがなかったような、ごく自然な感じで返事をしていたのだ。
 サークルのみんなで風俗の話をしていたら、急に亜紀が「しまるこくんって風俗すごい好きそう〜」と言ってきた。とにかく俺を傷つけたくてしょうがない様子だった。場の雰囲気や盛り上がりを利用すると同時に、自分の純粋な思いつきからでた発言という体裁を繕って、こういう発言をしてきた。本当にあなた風俗が好きそうだから思わず言葉に出ちゃったの、という感じを利用したわけだ。
「いやいや! ワッハハハハハ! 風俗て!!wwww」
 俺は無邪気に気持ちよく笑った。本当に亜紀は面白いこというなぁ〜! という感じで上手く笑うことができた。成功したかどうかは亜紀の顔を見ればよくわかった。困惑していた。俺は心を器用に操作することが得意で、悪意の一欠片を含めることなく返事をすることや笑うことができた。そういうときはいつもいい仕事をした気分になった。そういう時は決まって亜紀はキョトンとした。
(あれ、私としまるこって喧嘩してなかったっけ? なんでこいつ笑ってるんだろう? 悪意を感じない……。いい笑顔……。喧嘩は私の勘違いだったのかな? 本当にそういうキャラだから話しかけてこなかっただけ? あれ? 本当は喧嘩なんてしていなかったのかな? 私の思い過ごし? でもあの時シカトされたような気がしたけど?)という顔をしていた。
 ある冬休みの日。サークル仲間全15名が俺の家にやってきて、突然旅行に行こうと言ってきた。2泊3日の温泉スキー旅行だ。しばらく前からの決定していたことらしい。俺はサークルの会長だったが知らされていなかった。何も準備していなかった俺は、「わかった」とだけ言って財布だけ持っていこうとした。みんながゲラゲラ笑って、
「さすがしまるこ会長!」
「え、会長、本当にカバンなしで行くの?」
「うん」
「泊まりの旅行だよ?」
「うん」
「会長、着替えは?」
「いらない」 
「会長、パンツは?」
「裏返しにして履けばいいだろ」
と言ったら、「マジない……!」と亜紀が本当に気持ち悪がって大声で言った。他の女も引いていたけど、亜紀はここぞとばかりに俺を全力で気持ち悪がった。女という生理的に優位なポジションを利用して俺をとことん拒絶した。こういうときは俺をどれだけ気持ち悪がっても許される。それだけのことを俺がしたという下地がある。いい武器を手にしたという調子で、ずっとわざとらしく引いた様子を繰り返していた。
 まあ、なんにせよ、女はこんな風にじめじめした男は大嫌いなのである、肉を喰らって臭いウンコをして馬鹿笑いしている男が好きなのである。鋭すぎる男は気が休まらないのである。
 亜紀は悪意を込めながら俺に話しかけることが多々あった。そして俺は戦いがなかったように、清々しい態度で明るい笑顔で返した。その度に亜紀は混乱した。
(あれ? こいつ、やっぱりどっちだろう……。私のこと嫌ってないの? 私の一人相撲なの……? それともこいつ天然? でも……それでも、この笑顔を間に受けてしまったら、自分が本当にバカになりそう……! どっちにせよ、この程度のことでしまるこを受け入れるつもりはない!)という顔をしていた。
 俺はこういう冷戦のときは悪意を表に出した方が負けだと思っていた。亜紀の悪意や葛藤を見届けると、またつまらぬものを斬ってしまったという顔でその場を立ち去るのが常だった。
 しかし人間の自分に対する悪意を気づく能力は素晴らしい。少量な悪意でさえよく気づく。俺は満面の笑顔でいつも返事していたけど、亜紀はいつもどこかで俺を訝しがっていた。そういう時の勘は全て正しい。全て当たっている。俺は亜紀のことが嫌いでもなければバカにしているつもりもなかったけど、全てに気づいていたことは認める。あの笑顔は嘘だったことは認める。
 
 こうなってしまった時の解決方法を、俺は一つだけ知っている、全裸になることだ。お互いが全裸になる。心を脱ぎ捨てるという意味ではない。今着ている服を全部脱ぎ捨てる。そして2人で全裸になってお互いをずっと見つめ続ける。股間を手で隠してはいけない。そのままずっと見つめ続ける。それで解決する。
 自分より知性がある人間がいて、そいつがその知性のままに誰にも気を遣わず毅然とした態度で、下等生物を鼻先にもかけない態度で過ごしたら、我々はとても腹が立ってしまう。
 例えば落合陽一氏なんてそう。実際会ったらどうだか知らないけど、冷たい感じはするだろう? 口喧嘩したらすぐに負けそうだ。自分の全てを見透かされていて馬鹿にされていそうだ。馬鹿にすることもとっくに飽きられていて、その次の次の次のことを考えていそうだ。一生交わる階層は訪れない。俺のことを本当にどうでもいいと思っていそうだ。別にいいんだけど、「俺はここにいるぞ!」「俺を見ろ!!」と落合の顔面を掴んで、無理やりこっちに向かせてみたくなるときがある。
 自分に無関心な人間を見るとイライラする。イライラするけどその件で怒るわけにもいかない。「落合さん! 何でもっと僕と絡んでくれないんすか??」「落合さん!! ねぇ……!! 落合さんってば……!!」と泣いてすがりつくなんて死んでもできやしない。死んでもできやしないのだが、頭の悪い女というのはそういうのが仕草や態度に思いっきり出てしまう。さすがに、口に出しては言わないけど、プリプリして過敏に反応する。
 俺はそういう女の前を颯爽と横切ってきた。跡の場を濁して飛び去ることもあった。1回や2回じゃない、多分10回以上ある。落合氏もいっぱいあるだろう。今回の話がよくわからなかった人は、あなたと落合氏との関係に置き換えてみればいい。
 俺が全裸になって、汗と涙を流して、「亜紀……!! ごめんごめんごめんごめんごめん亜紀ごめんッ!!」と言えば亜紀も納得するだろう。しかし、それだと勝ったり負けたりが繰り返されるだけだ。本当に勝負を終わらせて、ゴールを迎えたかったら、亜紀も裸にならなければいけない。

出会い系で19歳の専門学生と出会う前のワクワク感➡実際会ってみての答え合わせ

 出会い系にもセンスがある。男女の色恋もカラオケで歌うも身体を動かすも同じだ。音楽の音程を掴む。体幹の中心を掴む。物事には中心の軸というものがあり、その軸を掴めなけば何をしてもダメだ。ジタバタするだけで成長はない。
 四六時中洋楽を聴いてる友達がいるけど、全く歌が上手くならない。しかし俺は年に数回音楽を聴くかどうかの人間だけど、周りで最も歌が上手い。運動も上手い。全て中心の軸を意識している為だ。

 では、前回の答え合わせをしよう。 

 散々褒めちぎったが、この子は友達がいないらしい。実際会ったら一見普通そうに見えた。友達もわんさかいるように見えるけど、学校ではいつも1人らしい。休み時間は1人でスマホをいじってお弁当も1人で食べているらしい。高校時代からそうだったらしい。居酒屋とシュークリーム屋さんでアルバイトをしているが、アルバイト先では友達はいるようだ。
 この辺りは二極化する。俺は反対に学校ではすごく人気だったけど職場ではすごい嫌われていた。学校では本当に面白い奴が人気になるけど仕事場だとそうではない。本当に面白いやつは複雑な精神でできていて、いつも有象無象のよくわからないものと格闘しているので、くだらない仕事に準じるようには造られていないのだ。面白い人間ほど社会的に無能な人間が多い。そして、つまらない人間ほど仕事ができるもんだ。頭脳や精神が矮小なせいか、働きアリのように単純労働が板につくように造られている。余計な思想に振り回されることもないので水を得た魚のようにお弁当に梅干しを添えていく。仕事ができる人間が発言力を持ち職場のムードメーカーになるわけで、俺はそういう奴からずいぶん迫害を受けてきた。つまり、俺と今回の19歳の子(りんちゃん)は真逆のタイプだった。

 りんちゃんは友達がいない割には手を繋いできたり、肩にもたれかかってきたりして、積極的だった。ピザ屋でピザを食べたけど、ほとんどりんちゃんが全部食べていた。2つあるピザの最後の一切れを2つとも、パクパクと喰らいあげていた。こんな子は始めてだった。別に俺は気にしないけど、嫌われる理由の一つだろう。
 一番良くないと思ったのは電話だ。ずっと黙っていた。こちらから話しかけなければずっと黙っている。会っている時に黙り込むのは普通かもしれないけど、電話でずっと黙られたらたまったもんじゃない。特に深夜の2時だから、もういい加減寝ればいいのに、いつまでもずっと切らずにいる。何も話さないのに一緒に繋がろうとしてくる。寝落ちしたのか起きてるのかもわからなくなる。沈黙が続くので、俺は2分置きぐらいに「起きてる?」と確認していた。一体何の時間かわからなかった。そうするとりんちゃんは、小さな声で「うん……」「何か……話して……」と言った。お前が深夜に電話かけてきて、こっちは仕方なく対応してやってんのに、それでも更に俺は話題を作らなきゃならんのか? クソ野郎が……! と思った。そして俺が話したところで大して聞く気もない様子だった。相槌もいれない。聞いてるのか寝てるのかわからない。ラジオみたいに話しているのをボーッと感じていたいだけなんだろう。会話をしたいんじゃなくて、部屋のテレビのような丁度いい雑音が欲しいだけなのだ。19歳だから仕方ない、後に成長するんじゃない? と思う人もいるかもしれないけど、俺は人生で一度もそんな失礼なことをした時期がないので、成長もクソもないんじゃないかと思っている。
 見た目はアプリの写真で見るより可愛かった。小柄で細くて声も高くて、サンリオのグッズで固められていて19歳らしかった。小さな体に大きなカバンや財布を持っているのも可愛かった。見たこともない信じられない大きな財布で持っていて、小型のノートパソコンくらいの大きさをしていた。
 髪は学校の規則で決められていて、真っ黒のポニーテールだった。本当はピンクにしたいと言っていた。ピアスも両方の耳に十個ぐらい開けて舌にも開けたいと言っていた。体に穴を開けたがる女は、まずメンヘラと言っていい。自傷行為をしようとする子はМだ。ピアスを開けている女の子は全員Мらしい。LINEもこちらが1通送る度に3通返ってくる。メンヘラだ。ずっと無言で電話したがるのもメンヘラだ。友達が1人もいなくて寂しいんだろう。学校は勉強するためにあるから友達は必要ないと言ってたけど、寂しいんだろう。
 結局みんな寂しがっている。若い子も大人も寂しがっている。マザー・テレサが日本ほど愛がない国はないと言っていたが、そうなんだろう。俺もよく寂しさを感じているけど、一見リア充に見える彼女達も、それかそれ以上に寂しさを抱えている。今まで出会い系で出会った子で、寂しそうな顔をしていない女などいただろうか?
 りんちゃんみたいに、B型でタメ口で夢遊病みたいにふわふわしていて、スマホばっかりいじって、ピアスを開けたり、きゃりーぱみゅぱみゅみたいのに憧れていて、やたらとLINEを送ってきて、靴が汚い女は、すぐにやれる。これは間違いない。
 りんちゃんは終始自分のことを話していた。あまり質問してこなかった。バーッと話したと思ったら又黙り込んで、そして沈黙が続くと「ねぇ、何か喋って……」と言ってきた。男の肩にもたれ掛かって甘えたいムードもあっただろうけど、喋りたかったら自分で喋らないといけない。
 基本的に俺は19歳で可愛かったら別になんでもいい。耳に穴が空いてようが胴に大きな風穴が空いていても別にいい。
 しかし、ある意味尊敬している。寂しくて仕方なくて、ただ相手と繋がりたいから急に電話をかけてきてずっと無言でいるなんて厚かましいことは、俺には出来ない。
 メッセージの段階ではいいところばかり見えて褒めちぎっていたけど、実際に会うとやはり違う。まぁ出会い系のあるあるだ。メッセージの段階で、その時点で完璧すぎるほど完璧でなければ、実際に会ってがっかりするのは確かだ。

  • ちゃんと質問をする
  • 敬語で話す
  • 相手と同程度の分量
  • おはようございますとお疲れ様ですを欠かさない

 こういうところがちゃんとしていなければ会っても後悔するだけだ。別にそんなに難しい事じゃない。これができる子はたくさんいる。俺は常にやっている。
 出会い系で出会えないと悲嘆に暮れて、クソみたいな女でもいいから会おうとする人は多いだろうけど、それは良くない。俺は何度もそんなことをやってきて、ただ心を蝕んだだけだ。何も得るものはなかった。人にはいくらでもやることがある。出会い系なんて後の後の後回しでいい。ブログを書くことだ。そっちの方がよっぽど重要だ。
「楽しくないけど、スマホをいじっちゃう。それで1日が終わっちゃう」とりんちゃんは言っていた。俺もよくあることだ。俺でさえ(←?)これだけ格闘してるんだから、みんなはとっくに負けてしまっていることだろう。今の人は本当に不幸だ。スマホに全てを奪われている。
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(しかし本当によくしゃべる)

「33歳が19歳の女の子と会えるだけで凄いことなのに何を言ってるんだ? 可愛いんだろう? じゃあいいじゃん! 19歳でしょ? 30代の基準に照らしてグチグチ言うのはあんまりだ!」と皆さんは言うかもしれない。散々、りんちゃんをボロクソに言ったように見えるかもしれないが、俺は全く悪口を言ってるつもりはない。むしろ人間再生のつもりで言っている。「人間再生ならなんで本人に言ってやらない? 本人が見もしないネット上で何をぐちぐち言っているんだ?」と思うかもしれないが、見に覚えのある別の誰かが(女でも男でも)、この記事を読んで一つ賢くなればそれでいいと思っている。更生するべくタイミングで、出会うべきに出会う問題に差し掛かった人がこの記事に触れればいい。
 19歳で着物を着ていて敬語で話して細身で巨乳で声が高くて料理が好きで俺だけにはエッチでそんな女の子を夢想することが多かった。こんな子を夢想していた。
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 そして実際に、半分くらい当てはまってるりんちゃんが目の前に現れた。これは俺の潜在意識が呼び寄せたものだ。口寄せの術だと言っていい。願望は必ず実現するというマーフィーの法則があるけど、俺はこれを信じている。これを信じて祈祷し続けた結果、夢が叶った。まぁ今回は半分しか合ってなかったけど、半分合えば十分だ。
 俺の祈りが届いて、神が出会い系という媒介を通して俺にりんちゃんを授けた。今の俺に、そしてりんちゃんにとっても必要だから今回の出会いが訪れた。必然的に起こった。決して偶然ではない。りんちゃんは俺の夢の中の登場人物で、そして俺もりんちゃんの夢の旅人なのだ。
 最近は他人の心の一番奥底にある光を見出そうと執筆をしている。出会い系も一緒だ。女の一番奥にある部分にペンを飾して書いてみることだ。
 恋愛にテクニックもメンタリズムもいらない。彼女の全てを見るのだ。それだけだ。それしかない。それが一番モテる方法で創作の奥義でもある。
 人間は自分の全てを、特に異性に自分の全てを見てもらいたくて仕方がない。常識で曇ったレンズではなく、研磨されたあなたの透徹な瞳で全てを見てほしいと願っている。無理にお世辞を言ったり、問題を解決することもない。相手と同じ目線に立って、相手になってしまうこと、そう、相手になってしまうことだ。
 彼女達の心にモヤモヤしたものがあったら、一緒にモヤモヤを見つめてあげることだ。何かしようとしてはいけない。ただ一緒に見つめることだ。自然と霧が晴れてくる。それが彼女達の求めているものだ。そしてあなたが求めているものでもある。俺はこれを求めていた。俺は全く迷わなかった。

出会い系で19歳の専門学生と出会う前のワクワク感

 最近19歳の女の子とマッチングして、今度会うことになった。
 19歳というのは俺が一番好きな年齢だ。ヒトラーも19歳が一番好きだと言っていた。19歳が一番懐柔しやすく純粋で美しいと言っていた。俺も同じ意見だ。19歳には不思議なパワーがある。大人と子供の間を揺れ動く、繊細かつ強烈なパワーがある、校舎からふわっと片足だけ飛び出している感が可愛い。
 どうして33歳の俺が、19歳の女の子とマッチングしているのか? 本当にこれは世界で一番不思議なことだが、30オーバーでも気にしないという女の子がいる。現に俺は19歳の大学生や20代前半の新社会人の女の子とたくさん会ってきた。彼女達は30オーバーの男を全く気にする様子もなければ、同い年の年齢の男のテンションはうるさくて好きじゃないとさえ言う。まぁ確かに若い男はうるさいかぎこちないかどちらかだ。ぎこちなくても内面はうるさいから結局うるさい。自分の若い頃を思い出してみると、自分のことばかりでうるさかった。フロイトの心理学では、女の子の初恋はみんなお父さんであり、お父さんに初恋を裏切られた喪失感が深層心理にこびりついているとのことだ。

 アプリのサーチ設定は18歳〜24歳までしか設定していないので、俺は25歳以上の女性とはマッチングできない。そしてする気もない。これは生粋のロリコンを意味していて、俺は24を超えた女はクソババアにしか見えないという病気に罹患している。これは本当に友達から心配されていて、「お前は年を取っていっているのに、20歳の頃から求める女の子がずーっと変わってないのはなんで?」とよく言われる。

 さて、今回の女の子を簡単に紹介をすると、製菓の専門学校に通っているほどお菓子作りが好きな19歳の子だ。作ったお菓子の写真を見せてもらったらとても見事だった。お城巡りや和服も好きなようで、学校とアルバイトでひっきりなしなのに関わらず、着付け教室にも通っているらしい。古風な物が好きな珍しい子だ。

 スキレットやストーンプレートを買おうか迷っているらしい。でも使うかなぁ? 洗い物大変だなぁ。石だから割れやすいしなぁ、と欲しいものを考えている様子が可愛いかった。世の中のほとんどの女が、ディズニーだったり酒だったり、低俗なことに金を使う中、自分自身と言えるような趣味にお金を使おうとするところはイイ。ディズニー、焼肉、EXILE、夏フェス、こんなことを異口同音で唱える烏合の衆は一生ここから抜きん出ない。こういう女は結婚直前になってお互いの貯金通帳を出し合う時、女だから10万円しかなくても当然だという顔をする。
 アプリのプロフィール欄も、「今は結婚を考えていない」「子供が欲しいかわからない」と書かれている。 これも珍しい。家庭に入ることよりも自己実現に忙しいのだろう。こういう人間がかえって家庭的にもなれるのである。自立した人間だけが経済も愛も育めるのである。

 最近、学校の実習でタルトを作ったようだけど、ミスが多く、周りと上手く連携ができなかったようで反省していた。もっとおもてなしの心を勉強したいから体験入学の案内スタッフを自分から申し出たらしい。ふむ、感心な子だ。
 なかなか苦労しているようで、学費の支払いや調理器具を買うために週6回以上のアルバイトをしている。居酒屋とシュークリーム屋さんの掛け持ちだそうだ(居酒屋なんてすぐに彼氏ができそうだけど、なぜこんなアプリをやらなきゃならないんだ?笑)。親には後で授業料を返してね、と言われているらしい。基本的に自分で学費を払っていて、足りない分は親に出してもらっているという。こういう子を見ると泣けてくる。俺は専門学校、大学、予備校の全てを親に出してもらった。予備校の寮も、大学時代の生活費も12万貰っていた。ちなみにアルバイトもほとんどしたことがない。まぁ、アルバイトしても2日以内でクビになっちゃうんだけど。

 十分変わり種ではあるが、彼女のさらに特異なところは、中国人の友達と電話をすることだ。これもアプリで知り合ったらしく、電話で中国語の勉強をしているらしい。勉強を終えると、一緒にワンオクやRADの弾き語りなどをするらしい。遊びまでも変わっている。変わっているけど好感が持てる。俺みたいなおっさんからすると、あまりにもくだらないことに時間を使い過ぎてきたから、眩しくてうっとりしてしまう。人生の歩き方が上手いなと思ってしまう。

 つまり、すこぶる評価は高いのである……! 自分の将来についてしっかり考えてしっかり歩いている子は、出会った時に不快になることはない……! OLやってたら、知らない間に年をとってしまったのでそろそろ結婚しようと思います、みたいな顔をしている女は泥棒と変わらないので近寄らないほうがいい。
 好きなことをしている子が一番だ。金がなくてもいい。私生活が充実しているからストレスがなくて優しい。変わった仕事をしている子がいい。その人にしかできないことをしている子はとても性格が良くのびのびしている。今まで、出会い系で一番すばらしかった出会いは音楽家の子だ。なけなしの給料でゴールデンレトリバーと同居しながらペットショップを起業しようとしている子や、公務員になって自分の住んでいる地域を活性させたいという子や、50万円のトイプードルを飼ってコンテストで優勝している子や、そういう子の方が性格ものびのびとしている。毎日仕事や勉強で忙しいのに余裕がある。そして忙しいはずなのに、こういう子達の方がすぐに会えるものである。

 外見の説明を忘れていた。顔は和風というか、前髪がきっちり揃えられている。鼻が低くて(出会い系で鼻が高い子はほぼいない)、唇が小さくて、焼きごてを当てられた後のように凝縮されたような唇をしている。別に悪い意味じゃない。褒めている。とても可愛い唇だ。目が離れていて少しヒラメっぽい。顔全体が四角くて平べったい。少し写真がニヤついている感がある。このニヤニヤは出会い系というやつをやってみました←笑、みたいなニヤニヤだろうか? 全体的に可愛い。基本的にニヤつくということは、いろんなことに気づいている人間だけの特徴だ。いつも真顔でふくみ笑いの一つもできない人間がいるけど、そういう人間ほど一面的で脆い。霊的修養や観察力に長けた人間ほど自然なふくみ笑いをする。19歳にふさわしいといった感じて、子供と大人の間を揺れ動く様子や、目がじっとして好奇心に溢れてパワーがある。心が上昇方位に指しているのが伝わってくるようだ。

 出会い系なんてものは会ってみなければわからない。だから会うまでのスピード感やテンポが大事だ。メッセージにおけるお互いのリズム感、ここが全てだと言っていい、お互いがこのくらいのやり取りをしたらさっさと会ってしまいましょうという、2人の距離感が近いほどいい。さらっとやりとりして、さらっと会えないようじゃまず無理だといっていい。うまく行った時は、すぐにメッセージしてすぐに会ってしまった時だけに限られる。

「今度ご飯食べに行こう」と言ったら、「やったー!!」と返ってきた。「やったー!!」何よりも、「やったー!!」である。

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 ビックリマークが2つもついている。何千回とメッセージをしてきて、「やったー!!」をくれたのは2人目である。「やったー!!」が許されるのは22歳までだが、俺達出会い系男子はこの「やったー!!」が聞きたくて出会い系をやっているのだ。最高の返しである。

 まあ、こうやって、褒めちぎったり気持ち悪いことを言ってきたけど、出会い系で期待しているとろくなことはない。すべて忘れることだ。出会い系はバーチャルなのだ。今は2人のボルテージが上がっている感じがある。こんな調子であったらすぐに付き合いそうだ。朝おはようと言って夜お休みと言って、既に付き合っている感覚すらある。けど、この期待が裏切られたことは死ぬほどある。会う前の、このワクワクが一番楽しい部分かもしれない。

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 悪いところは言葉使いが汚いね。俺は、なんと、女は男に敬語を使うべきだという古い考えを持っている。俺が女だったら死ぬほど男に敬語で話す。結婚してから死ぬまでずっと貫き通す。タメ口をするから離婚するんじゃないかとさえ思っている。

 色々言った。色々言ったが、この子の一番変わっているところは33歳の男と会おうとすることである。

全裸学校計画 第二章「講堂」

全裸学校計画 第二章「講堂」f:id:simaruko:20190518200709j:image

講堂

「――この世界の全ての問題は、1人ひとりの心的態度で解決する、ただしそれが永続すれば……。ですからつまり、陰部は弱さの証。平等の象徴。概して裸というものは、虐げられた弱者の形を表している。したがって、全ての人間がその弱さの象徴である『全裸』のまま過ごすことで、世の中から争いが消えてなくなります。誰かを威嚇しようとした瞬間、どうしても陰部が邪魔になる。陰部が自分は弱い! 自分は弱い! と主張する。ちんこを出しながら人を攻撃するということはできないのです」
「はあああああああ!?」
「全裸ぁぁーーーーーーッ!?」
「全裸だとおおおーーーーー!?」
「おい風紀委員会! お前ら頭狂ってんじゃねえか!? 俺はやらねーぞ全裸なんて!」
「お前らだけで勝手にやれ!」
「風紀委員会でしょ? 風紀委員会が風紀乱してどうするんですかぁ〜〜〜?」

 講堂は荒れていた。彼らの熱量は凄まじいものだった、大義正義が向こう側にあるように思えた。大義の元に思い切り俺達風紀委員会を罵倒できることに一切の迷いがなさそうだった。この大きな炎の渦の中で、我が一番的を得た発言をしてみせると好奇な顔をしている生徒が多くいた。
 もちろん委員長のファンも多く、彼らは委員長を心配していた。今日の委員長はどうしてしまったのだろう? 委員長側につきたいけど、ぜ……、全裸……? 何がなんだかわからない、とポカーンとした顔を浮かべていた。
「何が全裸だよ、俺たち全裸になって学校来なきゃなんねーのかよ、どこの宗教団体だよ」
「ふざけやがって……! いつもいつもくだらねー思いつきの企画しやがって! 振り回される方の身にもなってみろ、俺はお前らのオモチャじゃねー!」
「あのー……、委員長、それって男子達だけじゃダメなんですか? 私達女子も、その全裸になるんですよね? それって、その、レイプとか、その、されるんじゃないかって私怖いんですけど」
「ふざけんじゃねーぞブス!! てめぇなんて誰がレイプすっかよ! メガネ割るぞオラァ!!」
「牛乳瓶の底みてえな分厚いメガネしやがって! 世界でお前しか女がいなくなってもレイプされないから安心しろ!」
「そういえばこの女、この前の体育で自分でトスして落ちてきたボールを頭にぶつけて勝手に早退して病院に行ったんだぜ?」
「ギャハハハハハッッ!!!! スパイクされたヤツならわかるけど、そりゃねーだろブス!!」
「ブスほど自分の命を大事にするんだよなぁ!ギャギャギャギャ!!!」
 終いには全く関係ないところに脱線して、しっちゃかめっちゃかになっていた。

「なぁペヤング、全裸ってその、みんなを元気にするためにやるんだよな? 十分元気のように見えるんだが」
「…………フッ」
 ペヤングはケツのポケットからタバコを取り出すとゆっくり火をつけた。
 委員長が教壇に立ち、俺と水樹ちゃんとペヤングが後方で待機している形となっている。俺たちが話すターンも回ってくるだろうか? 委員長1人を矢面に立たせて俺たちは後ろで突っ立ってるだけだ。生徒達は俺ら3人には無関心そうだった。3人であやとりしていたとしても見過ごされただろう。委員長は俺達よりひとつ学年が上で(俺達が2年、委員長が3年)、委員会の長なのだから当然と言えば当然かもしれないが。
 全校生徒227名は既に騒いでも許される空気が出来上がっていた。生徒達は存分に後ろを向いたり思ったことを口々にしていた。呆然としたり、笑ったり、野次を飛ばしたり様々だったが、大体はニヤニヤしていた。
 さーて委員長、こいつらは俺達とは訳が違うぜ? 俺ら風紀部員はあんたと長く一緒に過ごしたことで狂っちまってるんだ、しかし民衆はどうかな? こいつらを説得するのは骨が折れると思うぜ?
「…………」
 委員長は罵詈雑言の集中砲火を浴びていたが全く怯む様子はなかった。中央の壇上で、背筋をしゃんとしていた。静かで力強く、それでいて慈愛に富み、自信に溢れているようだった。そして一人一人にパンを配って回りそうな様子で語り始めた。
「まずはあなた達が本当に望んでいることを当ててみせましょう。輝きたいのです。本当はもっと輝きたいんです、真っ赤に燃え上がって真っ白な灰になりたいんです。でもそうはいかない。毎日、スマホをいじってテレビをみて、他人の成果物を次から次へと消費する。そんなことを繰り返して、心の埃がゆっくりと、自分では気づかぬ間に堆く積まれていくのです。心の老廃物は便のように排出されません。いつも、どこでも、あなた達の中にある本当のあなたが叫びをあげている。ただ消費して生きる。それは一時的には満足しますが、寂しいのです。先日、部室の窓から、ある男子生徒の心を透視しました。
 『家にいても学校にいても閉じ込められているような不安があるのは何だ? 今が一番楽しいはずなのに心いっぱい楽しみ切れないのは何でだろう?
 心行くまで時間も体力もあるのに不完全燃焼した気持ち悪い気分が続く。よく寝て目覚めたのにまた眠らなくてはならないような感じだ。周りとはこんな状態で話したくないし悟られたくないから、いつも半分ぐらいの自分で対応している。感覚的に、反射の力を利用して会話している。
 スマホ、アプリ、ゲーム、ネット……確かに面白いけど言うほど面白いだろうか? 別に無くたっていいんだけど体が渇望して病まない。お腹いっぱい食べてもまだ飽くことを知らない。もうとっくに許容量を超えて便秘になっている。
 他に何かしなくてはならないことがある気がするけどなんだろう? 俺達は一体どこから来てどこへ行くのか? 時間が膨大にある。この時間をまたゲームに費やしてしまった。夜寝る前に罪悪感を感じる。お母さんがパートに行って家事をして何でもやってくれる。お父さんが働いてくれてるからこうしていられる。そうして与えられた貴重な時間をいつもいつもドブに捨てている。
 だからといって、何をしていいのか分からない。何者かになりたい。何だっていい。何か大きなことして褒められたい。おっさんになって認められてもダメだ。それじゃあ遅い、今……今……今……! 今、俺は輝きたいんだ! 成功して金持ちになってお母さんをビックリさせたい。高級家具店で一番高いソファを買ってあげたい。俺もそこに座ってゲームしたい。
 彼女も欲しい。俺はビッグなことを成し遂げたから普通のカップルと違う。彼女には鬼のように尊敬されている。そして鬼のように蹂躙することができる。彼女の友達からも羨ましがられている。学校に行けば英雄だ。校長先生にも名前を覚えられている唯一の生徒だ。しかし、やっていることといえば、スマホいじってるだけだ。大好きなあの子は別の学校の男と付き合ったらしい。そんな……嘘だろ!? 反則だろ! 同じクラス内で付き合うルールだろ……!? 審判あの女を退学にしてくださいッ! まだセックスしてないはず! 絶対まだだ! 付き合うという契約書が回ってきて判を押しただけだ! 付き合ってるけど俺のことが好きなはずだ! こんなのたうち回る気持ちのまま、また家に帰ってゲームしなきゃならないのか?? 明日も明後日もこれが続くのか? 大人になったら変わるのか? 自動的に変わるのか? 俺は一生このままなのか……? もう嫌だ! いいかげんにしてくれ! こんなに苦しいのに俺はスマホをいじるしか能がないのか……!? もっと、みんな、俺を見てくれ! 俺を見ろ……!』
 …………。こんな悲痛な心の内を誰に一体さらけ出せるというのでしょうか? あなた方は何気なく廊下を歩き、授業を受けて、お弁当を食べていますが、心はいつもこんな風にのたうち回っています。私には聴こえてきます」

 生徒達は静かに聞き入っていた。いくらかの生徒が、胸の中を抉られたような悲痛な顔をうかべていた。
「……続けます。さて、世の中に流布されている自己啓発は少しだけ意識の高い人をさらに意識を高くする為だけに存在していて、人々の格差はどんどん拡がっていきます。それはあたかも人を出し抜いたり出し抜かれたり、捨てたり捨てられたりといったことを助長しているようです。つまりこれは……、一人ひとりが望まなくても、社会が人を馬鹿にせざるを得ない仕組みになっているのです。そんな社会に徹底対抗するために、そしてこれまで馬鹿にしてきた人達に対する謝罪を込めて私は全裸を主張するのです。
 全裸。宗教だと思うでしょうか? 全裸が宗教なら、大学に入って会社に就職して終身雇用に預かれるという思い込みも宗教ではないでしょうか? あなたたちは一度でも現実に立脚したことなんてあったでしょうか? 全裸……全裸……全裸……。ふざけていると思うでしょうか? ただ、学園をめちゃくちゃにして、人間という複雑な生命体を使った遊戯だと思うでしょうか? 後ろに控えている会員のペヤングはそこに惹かれているようです。あなた方の中にもそうした部分に興味がある生徒がいるかもしれません。面白そう、嫌だ、怖い、気持ち悪い、レイプされそう。授業サボれる。退屈しのぎになりそう。これは後ろにいる森永明治の意見。色々な感想があると思います。別にどんな動機や感情で始まっても構いません。行き着く先の精神は皆同じになるでしょうから。
 全裸の果てに何が待ち受けているかは分かりません。私にもわかりません。取り返しのつかない犠牲があるかもしれません。レイプは私が守ります。そこは命に代えても何とかします。一部始終を外部に漏れないようあなた達の将来は私が守ります。
 私はあなた方の心を透視してきました。ひたすら透明になって、あなた達の心の奥に何があるのか解剖してきました。するとどうも、薄粘っこい、些末な……、何か拭いたくても拭いきれない悪霊のようなものが取りついてるではないですか。カラオケに行ってもスポーツしても取り付いて離れない魔物があなた方の中に潜んでいる。まあ、これは先程の話しましたね。あなた方はそのまま大学に行き会社に行き結婚して40年働いて死ぬ。何か溜まった宿便のようなものがあり、これにずっと苦しめられながら一生を終えてしまう。これを強制的に排泄させたいのです!
 『そういう人がいるのは知っている、だけど私は違う! 私は既に輝いている、だから放っておいて! 必要な人だけでやってほしい!』 そう思う人もいるでしょう。後ろにいる東国原水樹もそういう考えでした。最もな意見に聞こえますが、この考えは結局自分を苦しめることになります。自分さえ良ければいい。みっともない人、馬鹿な人、わからずやの人は放っておこう。自分達は自分達のできることをやっていればいい。自業自得だ。残念な人達は放っておこう……という鉄の暗黙が交わされている。変な病気をうつされたら困るといった顔で追い払おうとします。この愛のない鉄の暗黙が、私達が思い切りぶつかり合っていけない精神的背景を作っています。皆さん覚えがありますね?」
 
「期間は? 期間はどれくらいを考えているんですか?」
 1人の女子生徒が声を上げた。
「1日です。たった1日で十分だと考えています」
「1日かよ!!」
「おい! 1日だってよ!
「なんだよ1日かよ」
「てっきり2週間ぐらいやらされるのかと思ったぜ」
「いや、てっきり俺は卒業までやるのかと」
「1日なら、俺はやってもいいかなと思うけどなぁ〜」
「いや、1日っていったって大したことだぜ?」
 1日。これはあまり長引かせると不測の事態をもたらすと考えた結果だ。委員長は長期に渡ってやりたがっていたけど、まずは1日やってみて、それから日数を伸ばしませんか? と進言してなんとか了解をもらったのだ。

委員長の主張1「うるさい声」

「あなた達はどうですか? 自分の心の内がうるさくてうるさくて仕方ないのではありませんか? この声を……、一生聞かなくてならないのか? 自分で制限できないため、いっそ海に飛び込んで死んでやろうと思ったりしませんか? 寝ても覚めても鳴り止まぬ内なる声。生命が続いている限り、私たちはこの声に振り回されます。一体、誰が何のためにこんな声を発しているのでしょう。どうしようもなくイライラしたり、どうしようもなく切なくなったり、どうしようもなく死にたくなったり、この声を無視できればどれだけ幸せでしょうか? 作家に自殺が多いのはこの内側の声に耳を傾け過ぎたからでしょう。しかしこれは作家に限ったことではない。あなた達全員の心の中に今起こっている。誰もが健康健全に生きているようで、いつもこの作家病に悩まされている。いったいこの心の声はどこから来るのか? なぜこんなにも私達を苦しめるのか?
 他人の声はどうですか? ニュースがうるさいですね。本当だか嘘だかわからないような報道がされています。たとえ本当だとしても、私達にどうしろと言うのでしょう? 人が殺された。高齢者が運転事故を起こした。起こる前に言ってくれるなら助かりますが、起こった後に言われてもどうすればいいんでしょう? 本当にニュースは必要ですか? ただ私達の気を引きたくて、大きな論争を巻き起こさせたくて、この指とまれキャンプファイヤーをさせたいだけでしょう? 汚い炎です。周りを踊っているあなた達もね……。こういった報道に対するあなた達の声も汚いものです。自分が一番いいコメントを残してやろうとうるさくて適いません。利己心からスタートした主義主張は騒音でしかありません。自分の声もうるさければ他人の声もうるさい。いいからいい加減黙れと。みんなうるさい! 黙れ! みんな黙れ! いいから黙れ! そして自分が一番黙れ! 
 人は黙っていられないからうるさいのです。誰かと話さずにいられない。ネットで吠えずにいられない。動画のコメント欄で喧嘩せずにいられない。公共放送機関も同じです。黙っていられないから事実をねじ曲げてでも低俗な情報を流すのです。例えば高齢者の運転事故は決して昔より増えてなどいません。十代や二十代の起こす事故の方が圧倒的に多い。もちろん1人あたりの単位ですよ? 
 精神だけではない。身体も壊されている。人間は少食にすることでしか健康を保てないのに、そんなことはお構いなしにあの手この手を使って美味しい匂いを漂わせ誘惑してくる。誘惑するのはいい、誘惑するだけしといて後のことは勝手にしろという態度が気にいらない。防腐剤、増粘剤、pH調整薬、凝固剤、着色料、香料……、これらの化学薬品や添加物が一切ない食品などあるでしょうか? 国民がこれらを食べて身体が悪くなっても、どうにでもなれと思っているんです。私達はスーパーで買い物するしかないのにスーパーでは毒しか売られていない。近頃ではみんな健康意識は高いのだけど、取り入れ先の情報が間違っているし、頼りのスーパーがこれだから一生懸命毒を買い漁るしかない。そして病気になり、病院でも搾取される。文明社会にいる限り、ろくなものは食べられません。みんな、私達は食べ物に恵まれていて、昔の人や貧困国の人達は可哀想と思っているでしょうが、私達の方がよっぽど可哀想なのです。その証拠に50代以上の人間で、糖尿病、脳梗塞、パーキンソン、変形性膝関節症、認知症、高血圧の気が少しもない人間などいるでしょうか? 牛乳は血液の粘性を高めて喘息を起こす。スーパーのお弁当は一週間外に放置しても変色しない。今一度考え直して、芸能人の離婚ではなく、私達の命の危険に迫っていることを報道すべきではないですか? 当然、食品業界が黙っているわけがないですが。
 私達は恐ろしいことに女性化しています。精神だけでない。身体も女性化しているのです。ダイオキシンなどを代表とする環境ホルモンは、日常生活の中に深く溶け込んでいて、食器や洗剤などに70種類が指摘されていますが、これは内分泌を撹乱し、女性に対しては子宮内膜症、男性に対しては精子と男性ホルモンの減少を引き起こします。男性の精子は1938年には平均11300万あったのに1990年には6600万になっているとのことです。あなた達の精子は半分に減っているのです。最近、着床がうまくいかない人が増えていることや、女性がやたらと子宮癌や乳癌になって亡くなられているケースが多いですが、これが大きく関わっていることでしょう。我々を女性化させる環境ホルモンは化学薬品や洗剤や生活汚水に含まれるようですが、では洗剤を使うのはやめましょうということにはならない。考えもしない。提示もしない。提示ができない。自分達の生物としての機能を衰退させてまで何をやっているのでしょうか?
 真実より瞬間の快楽を選択することを繰り返した結果、もう戻ることのできないところまできてしまった。今ではもう何が正しくて何が間違っているのかもわからない。大事なことから目を逸らして、騒ぎやすいテーマだけに絞ってみんなでギャーギャー騒ぐ。寂しいから自分も参加してギャーギャー騒ぐ。あるいはボーッと見ているだけ。ボーッと見てる人の方がずっと多いでしょう。ボーッと見ている人もちゃんと参加しています。喧しい騒音がグルグル自分の中を駆ける様が病みつきになっているのです。ボーッとしているようで、忙しく脳内の信号をチカチカ明滅させて火中で踊っています。報道している人間もただ音に出して原稿を読んでいるだけです。全員狂っているのです。
 本源から離れたところで語るのではなく、本源に向かわねばなりません。こんなにイライラしてうるさくて寂しくて仕方がないのは、表層的なところでいつも踊って踊らされているからです。本源が叫び声をあげているのです。

委員長の主張2「心をキラキラさせること」

 私は両親の影響もありますが、日中こんなことを考えてばかりいて、いつも『心の置きどころ』を探してきました。果たして人はどこに立脚点を置けばいいのか? いちいち心が患わされたり戸惑うことが面倒でしょうがない。だからひたすら探しました。自分なりの答えとかそんなあやふやなものでなく、はっきりとした公明正大の真理です。もの凄い数の星々が縦横無尽に考えられない速さで移動しているに決してぶつかり合わないのは、天の計算がなされているからに他ならない。私の心にも天の住民票が記されているに違いないと思ったのです。それさえわかってしまえば、あとはそれに頼って全ての問題にあたるだけで何でも解決できてしまうと思ったのです。
座右の銘、スローガンといったものとは少し違います。目に見えない森羅万象を完全に悟ることです。心がいちいち惑わされないためにはどういう心的態度でいればいいのか? 心のカーソルをどこに合わせればいいのか? それは点なのか線なのか? それとももっと大きな範囲か? いや、もしや、どこにも心は置いてはいけないのか……? ひたすら修行しました。そして見つけることができました。
 真理とは積極的な気持ちだけでいることです。前向きで、心の中心が光り輝き、他に何もない。ただ光だけがあるだけ。自分を越えて外にまで光芒に包む精神をいいます。逆に言えば消極的なマイナス感情を全て撤廃させるということです。理論上はこれだけです。これさえ守ってさえいれば、十中八九、真理の中にいます。
 積極的な精神だけを据え、消極的な精神を廃す。「さあ! がんばるぞー!」「おー!」というのとは違います。それは心に波風を立たせているだけです。静かに、消極的な気持ちを1つ残らず焼き尽くすのです。この違いは難しいかもしれません。心の中心に珠玉をイメージしその玉が汚れぬよう気を払うのです。負の感情を滅却しなさい。自分の中に負の感情が侵入してきたら必ず焼き殺しなさい。その都度レーザー照射して滅却させるのです……! 人間の仕事はたったそれだけなのです。『人間の仕事はいつもキラキラしてさえすればいい』トルストイの言葉です。キラキラとはテンションが高かったり、飲んだり騒いだりということではありません。心の底にある珠玉でもいいし中心でもいいし光柱でもなんでもいいですが、これを絶えず輝光させなさいということです。社会から泥をかけられても常に洗濯しなさいということです。あなた達の中にある光は自分はおろか周囲の人間にも浸透します。心の速さは光よりも速く、世界全体まで届き得るのです」

花京院豪花の反対意見1「わたし裸になんてなりません!」

「委員長、ずっと黙って聞いてましたけども、我慢できません。気持ち悪い、本当に気持ち悪いです。レイプから守ってくれると言いましたけど、どうやって守ってくれるんでしょう? 私は人前で裸になんてなりたくないし、なる必要があるとも思えません。これだけの人数を動かすのであれば、まずは成功体験の一つでもソースとして提示してもらいたいものです(あるわけないでしょうが)。言っておきますけど、私は絶対に裸になんてなりません。そういう生徒は他にも絶対にいるでしょう。そんな生徒達をどうするおつもりですか? まさか無理やり脱がすつもりでしょうか? 犯罪ですよ? そんなことしたら警察呼びますからね? 委員長は美人ですから、よっぽど身体にも自信があるんでしょうが、私達は違います。私達は、委員長の言うとおり、酸化した脂で造られた安いスナック菓子と薬品塗れのお弁当でできた貧しい体ですからとても見せられたもんじゃありません。委員長は本当は身体を自慢したいだけなんじゃないんですか? 個人的な性的趣味に巻き込むのはやめてください。一応こんな私でも両親から貰い受けたこの身体を大事にしてきました。貞操も守っています。確かに私たちはいつも暗澹とした黒い霧のようなものに囲まれていて息苦しい。いつでもどこでも聞こえてくる自分や他人の声が一日中鳴り響いておかしくなりそうです。でも心許せる親友や、家に帰ると暖かく迎えてくれる家族がいます。そんな人達によって随分と助けられてきました。委員長もそんな人の一人だと思っていました(ついさっきまでは)。私が全裸になったら、お母さんもお父さんも悲しむと思うんです。ペットのペルも悲しむと思うんです……。身体を守って生きるということは、今の私達が出来る最高の親孝行だと思うんです……! 私はこの学校に入学してよかったと思っているんです、以前、委員長は言いました。
『あらゆる問題を瞑想によって解決しなさい。無益な思索によらず、神との霊交によって解決するよう努めなさい。心の中から教条主義的神学の垢を取り除いて、その代わりに、直覚という新鮮な癒しの水を組み入れなさい。自分の意識を内なる案内人に同調させれば、人生のあらゆる問題に対する答えを聞くことができる。人間は、自分の身の周りに悩みや問題を作り出す天才で、次々と作っては飽くことを知らないが、神もまた飽くことを知らぬ無限の救済者なのだ』
 これはある福音書の一節だと言われましたが、委員長はこれを大層お気に入りのようで何度も私達に言い聞かせてくれました。そして、みんなで瞑想しました。あの時間は本当に素晴らしいものでした。私はあれから毎日自主的に瞑想しています。あの時は瞑想で全て解決できるって言ったじゃないですか! あれは何だったんですか!? もう飽きちゃったんですか?? コロコロ方針を変えるのはやめてください! その都度本気になった私達が馬鹿みたいじゃありませんか!
 宗教臭くて遠い山奥へジムニーで乗り込んでいく様を両親は心配していましたけど、私が熱心に瞑想しているのを見て、豪華をあの学校へ入学させて良かったと言ったんですよ!? それをあなたは裏切った……! 私を、私の両親の気持ちを裏切った……! 私、委員長のことが許せません……!」
 花京院豪華は泣いていた。途中怒ったり泣いたり様々だった。いつも人一倍熱心で委員長の企画を言われた通り遂行したと思えば、真っ向から対立する唯一の人間も彼女だった。しかし、こんな風に泣き喚く姿は初めてだった。

委員長の主張3「心を破壊せよ」

「花京院さん、あなたの言いたいことはよく分かりました。あなたの怒りも、御両親への想いも分かりました。あなたが裸になったら、確かに御両親は悲しむかもしれません。今まで大事に育ててきた娘が傷物にされたと思うかもしれません。しかし、それは一時的なものです。親が子に期待するものはいつだって子の本当の幸せです。『娘が学校で全裸になった』それだけの事実を耳にしたら発狂するかもしれません。ですが肝心なのはいつだってあなたの心的態度ではありませんか? あなたが全裸にされたとメソメソ泣いていたらご両親は発狂するでしょう。しかしあなたがこの企画から宝玉を持ち帰ることができて、『全裸になってよかった』と心から晴れ晴れした顔で戻ったらどうでしょう? ヒマラヤにこもって修行するため、仕事を辞めて、嫁も子も捨てて急に出家したサラリーマンも同じです。最後に晴れ渡った顔を見せられたら親も他人も誰も何も言えないのです。
あなたはソースの提示を求められましたが、そうですね。ある芸術家が非文明国に滞在したときの手記が残っています。これを口述しましょう。
『今晩はなんて美しい夜だろう。沢山の人たちが、今夜私と同じようにしているにちがいない。ここの人たちは気楽に暮らし、子供たちはひとりでに育っている。彼等は、どこの村であろうが、どんな路であろうが、どこにでも出かけてゆき、他人の家の中で眠り、食事をし、礼一つ言わない。お互い同士おなじことをしあっているからだ。彼等を野蛮人と呼べるものだろうか? 彼等は歌い、決して盗まず――私の家の戸は、何時も開けっ放しだ――人殺しをしたりしない。次の二つの言葉に、彼等の性質がよく出ている。「イア・オラナ」(今日は、さようなら、有難う、などの意)と「オナトゥ」(かまうもんか、どうでもいいさ、などの意)だ。それでも彼等を野蛮人と呼べるものだろうか? 私のはだしの足は、毎日砂利をふみ、大地になじんだ。ほとんどいつも裸の私の体は、もはや太陽を怖れない。文明は私から少しずつ離れてゆく。私は、単純な考え方をするようになり、わが同胞にほとんど憎しみを抱かなくなった。私は動物のように、自由に、今日と同じ明日を確信して働く。毎朝太陽は、みなのためにも、私のためにも、はれやかにのぼる。私は、無頓着になり、落着き、優しくなった。いつも、いつも。間違っているのは社会なのだ』
 そして、もう一つ、瞑想によって全てを解決するという方針は今でも私の中心として屹立しています。そう、全裸よりもこちらを私は優位だと考えています」
 
 意外だろうか、この言葉に反応する生徒は多かった。
「なんだって!?」
「瞑想の方が上だってよ!」
「そんな! 一番じゃねーのかよ! 2番か3番だかわかんねーような事を俺らにやらせようとしてんのか!?」
「ふざけんじゃねーぞ!? じゃあ瞑想だけやってりゃいいじゃん!」
「なんだよ、つまんね」
「じゃあ、つまりあれか? 俺達は瞑想をあれだけやっても変わらなかったから、2番か3番の全裸をやったとしても、変わらねえことははっきりしてるじゃねーか!」
「やめだ……! 俺は全裸なんてやらねえぞ!」

「瞑想によって全てを解決しようとする姿勢は正しい。今でもそれを大きく採用しています。今後も学校の方針の究極的なところではこれを推奨していくつもりです。しかし、心を破壊しなければならないのです。もう一度いいます。心の破壊です。これをよく覚えていてください。これが今あなた方が早急にしなければならない第一目標です。『心を破壊』と言うと、この世で最も聞こえの悪い言葉に聞こえるでしょう。私のことが悪い魔法使いのように見えるでしょう。心を大切に、心を美しく、心を開いて……、こころこころこころ……、この心というものを、世界は至上に置いてきました。だけど、どうでしょう? この心によってあなた方は苦しめられているのではないでしょうか? 先程話した内なる声と外の声もこれを指しています。心がうるさいのです。本来、瞑想の目的は心を破壊することにあります。意外でしたか? でも、本当です。あなた方が思っているあなたは、本当のあなたではない。心もあなた方が思っている心は、あなたの心ではない。あなた方が心だと思っているものは、『毎日の生活の中で堆く積もったゴミ』『精神の習慣的な反復作用』『ひとつの傾向』です。
 どうでしょう? あなた達は昨日も今日も同じことを考えて生きていませんか? 9割同じことを考えて1日が終わっているでしょう。汚れた水道管や血管のように、いつもいつもこびりついて離れない9割のゴミで埋め尽くされている。僅かなほんの小さな隙間から息を絶え絶えにして呼吸しているのです。瞑想で心を破壊できるんだったらそれに越したことはない。でも今のあなた達にはそれができない。実際にやらせてみてわかりました。あなた達は瞑想の前にやることがあった。あなた達は全裸になって、陰部を堂々と主張し、腰を前へ反りだし、真正面から人と太陽と向き合うことで、脳がのたうち回り気が狂い、息をゼーゼー切らしながら、それでも座り込むことなく、膝をガクガク震わせながらも立ち続け、そしてそれでも立ち続けることによって、進化しなければならないのです……! あなた達はいつも増やすことばかり考えている。肝心なのはいつだって減らすことです。減らして減らして死ぬことを提案したい。完全に心の中の病巣を焼き尽くす。心の中に大きな花火を打ち上げて内部から心を破壊するのです。全裸になっている間は、素晴らしい精神状態になるかもしれません。けど、また服を着れば元通りになるかもしれません。もしそうならまるで意味がないことになるのか? 人生は体験するためにあります。全員が全裸になって、何かが生まれるかもしれない。何も生まれないかもしれない。でも、体験することに意味がある。生きることに意味があるのと同じです。心を破壊することでキラキラした精神だけが残ります。まずは一緒に心を破壊しましょう……!」

花京院豪華の反対意見2「あなたも文化を味わってるじゃない!」

「委員長、これまでお話を聞いていて、どこか引っかかるというか、腑に落ちないところがありましたが、今はっきりしました。委員長、あなたは文化を否定しているのに、あなたはその文化をありがたく頂戴していることです。あなたのシワひとつない綺麗に誂えた制服も、あなたの心許ない視力を補強する金属も、手にされているマイクも、そしてご両親の大きな経済をバックボーンにしたジムニーの招集も、この学校も……! 成り立ちませんよ! 水道もガスも電気も交通機関も思う存分しゃぶり尽くしておいて、都合が良ろしいではありませんか?
 委員長、あなたが生まれたままの姿で野原の切り株に座ってご高説されるなら分からないでもないですが、あなたは欲しいがままに文化の恩恵に預かっている……! 私はそういう人間が大嫌いです! 最後に言わせてもらいますが、なぜ今もあなたは服を着ているのですか?」
「そーだ! そんなに裸になりたいならそういう国へ行け!」
「そうだ! お前がどっかの部族と過ごせばいいだけの話だ!」
「同じ国で同じものを見て育っても、私とあなた方のように大きく人間が異なってしまうのは見てのとおりです。洗脳されるものとされないのができる。私が服を着て文化的な生活を送っているのは既に洗脳から解けて確かな自己を確立しているからです。とりあえず、円滑に暮らし余計な面倒事を巻き込まれぬよう行儀のいいふりをしているだけです。別にどちらでも構わない。少し楽をしたとしても、普段から魂の手入れをしている人間には不問です」
「なんだそれ!」
「ふざけんな! 証拠を見せろ! 証拠を! 「そうだ! 今すぐ服を脱ぎ捨てやがれ! 魔女が!」
「そうだ! 脱げ!」
「脱〜げ! 脱〜げ!」
「ヒューヒューー! ヒロコーーーーーーーッ!!」
「脱げねーなら俺が手伝ってやろうかーー? ヒロコォォーーーーーーー!!」
「脱〜げ脱〜げ脱〜げ!!」
「ヒーーローーコォォーーーーーーッッ!!」
「脱〜げ脱〜げ! 脱〜げ! 脱〜げ! 脱〜げ!!」
 あまりにも汚い野次だった。これは生徒達が生徒達に向かって放たれている言葉といっていい。委員長に向けた言葉ではないのだ。取り合わなくていい言葉なのだ。
「委員長、脱ぐんだろうか?」
「さあな」
 ペヤングはタバコを取り出して言った。
「一旦、休憩を挟みましょう!」
水樹ちゃんが言った。
 この場で裸になれるものなのか? 全校生徒227人、554個の瞳で見られるってどんな気分なんだ?
「そして、勇気があるものとないものができる」
 そういうと、委員長は着ている制服を掴み、試合開始のジャンプボールのように宙へ放り投げた。

裸の聖母

 白い肌。ツンと上を向いた初々しい乳首。小さくも大きくもない乳房だが、中に鉄芯が入っているかのような張りがある。上品な裸だ。旬のアイドルの身体というより神話の彫刻に近い。エネルギーの結晶のようだ。周りに光粒がチラチラ舞っているようにも見える。陰毛も、春の小川のようにさわやかに咲いていて、今にも一本一本が、風に吹かれて郷里の丘へ運ばれていってしまいそうだ。
 高校生はいつだって刺激を求めている。刺激は、委員長の覚悟。この状況でたった一人で全裸になったこと、今こうしてひとりの女子高生が堂々と全裸で屹立している非現実的な状況からきていた。
 彼らにとって、大人は全員出枯らしで退屈だった。いつだって若いカリスマを求めていた。誰かに先導してもらいたかった。心の底から崇拝できる人に、自分の人生を預けたくてしょうがなかった。
 おそらく委員長は計算して裸になったのではないだろう。細胞が燃え上がったのだ。そして全体の意思。講堂が委員長に全裸を求めた。
「全く恐れ入るぜ。ここまでやるとは思わなかった。才色兼備で筋金入りの金持ちだ。どこに不自由がある? 約束された将来をひな鳥みたいに口を開けながら待ってればいいのに。なあ森永、こんな女と誰が結婚したいと思う? 生活引っ掻き回されそうだし、うるさいし、度胸があり過ぎて何をしでかすかわからない。森永、お前、委員長と結婚したいと思うか?」
「しらねーよ」
「でも、いい身体だよな。これが残念な身体だったらどうなっていたかな」
ペヤングは腕を組んで女体専門家のような口ぶりで話す。
「全裸になることはとても恥ずかしい行為だ。誰もがいい身体をしているわけじゃない。若いのに垂れ下がった乳首をしている者もいる。包茎もいる。短小もいる。塩っ辛いまんこもいる。だが、それでいい。これでもかと負け一色の姿を世界に晒すことに意味があり、前進があると思っていた。それが全裸の核だと思っていた。だが、今思い改まった。全裸は負けじゃない。勝者の姿だ。自分との戦いとのな」
 自分との戦いの勝利……。確かに今、瞬間瞬間に、委員長は自分と戦って勝利している。
「AV女優も全裸になって、男達にもみくちゃにされ白い海の中に沈められた。女の一番大事なものを売り渡してしまった。でも、彼女達はどこかホッとしているようなところがあると思わないか?。自分が大切にしていた全てを失った喪失感。ゼロ以下になった感じ。いくところまでいった。もうここより下はない。バラエティなんかでAV女優をみると、どこか逞しいよな。下品なことを進んでやる。不倫報道されたアイドルもまた然りだ。自分が今まで大事に守ってきたものを自分から壊した人間というのは逞しい。女芸人もそうだ。どこか男っぽい。グラビアアイドルも意外に男っぽいんだ。どうぞ抜いてください! てな具合にデンとしている。女は汚れる勇気をもって、自分をぶち壊すことで男に近づくことができる。女は内に男を住ませなきゃダメなんだ。だがな……森永……」
 ペヤングは新しいタバコを一本取り出して言った。
「果たして俺は女芸人と結婚できるのか、それが問題なんだ」
「わかったペヤング。少し静かにしてくれ」

 どれだけ偉そうな人間でも、裸であれば脆弱に見えてしまう。しかし委員長は違った。どこにも弱さがなかった。少なくとも、今、俺達から見て、弱い立場にいるように映らなかった。もっと深くいえば、実はこれはよく観察していなければわからないのだが……(しかし、これこそが何にも増して重要だと思われる……!)、委員長は少し、一瞬一瞬、弱くなったり強くなったりしていた。やはりというべきか、勢いよく全裸になっても時間が経てば精神的な推移が始まりだす。全裸で矢面に立っていれば、心の隙間に負の感情が入り込んでくる(それはまるで、委員長の決死の覚悟を嘲笑うかのように……!)。絶えず突き刺さる視線、不安か恥辱か、今すぐ逃げ出したくなるような、胸を手で覆いたくなるような気持ちが生まれてくる。だけど、委員長は、そんな消極的な気持ちを一回一回浄化しているように見えた。凡人はきっとそれにやられてしまうのだろうが、委員長は一瞬一瞬に迫ってくる弱い気持ちに取り合わず、瞬間的に何度も氣を更新しているように見えた。一瞬一瞬、死んで生まれ変わっているのだ。全く動じないわけではない。委員長も人間だ。何も感じないわけではない。その都度生まれ変わることで、立っていられるのだ。光の正体は、新しい生命だったのだ。生まれたままの姿で、生命力を瞬間、瞬間的に爆発させている……!
 どうしてこの人は講堂で、わざわざみんなの前で全裸になって、ここまでやるんだ? これぐらいの年頃の女の子だったら、彼氏と遊園地に行ったり、友達と集まってBBQやりたいんじゃないのか? くだらないゲームの課金でもいい、全巻集めた漫画を売ってまた買い戻してテヘへと笑ったり、そういうもんじゃないのか? 女子高生ってのは……! どうして全裸なんだ!? そしてどうして俺は委員長のことを放っておけないんだ?!? どうしてこんなに胸が苦しくなって、何かしたくてたまらなくなるんだ? 俺はまだ全裸が善玉か悪玉かわからずにいる。だけど、そんなことはどうでもいい。俺はこの人と一緒に戦場を駆けて一緒に死にたいのだ。
 「森永。色々理由はあるさ。理由は、散々に渡って委員長が言った。服を着るとどうしても人間は偉そうになる。自分が服を着て相手が裸だったら征服者のような気分になる。相手が経営者だろうが首相だろうが見窄らしく、路肩の石ころのように蹴飛ばして当然だと思うだろう。人間を強制的に全裸して浄化を図る、それは彼等に全裸という光の鉄槌を振るうことだ。そのために委員長は全てを巻き込もうとした。俺は委員長のことを狂った夢想家だと思っていた。だがな……、この光はなんだ? 講堂には今、光しかない……。理由も糞もない。ただ剥き出しになった魂が暴走している……! それに呼応するように生徒達の心も何かに目覚めようとしている。委員長にはもはや何もない。全裸になる理由も服と一緒に消えてしまった。委員長は、ただ童心に帰り、真実の姿で全校生徒と戯れようとしている……」

講堂2

 生徒達は嬉しかったんだろう。文字通り、裸一貫で、自分たちに本気で向かってくれることが嬉しいのだ。何にも増して、その気持ちが嬉しい。刺激は落ち着いてくると、次は感謝の感情が講堂を支配した。一筋の滴が、ある男子生徒の頬を伝った。
「委員長あんたはやっぱり本物だ。俺はもう迷わない、一生あんたについていく!」
「いいぜ、委員長なってやるよ……、全裸!」
「あーー! 暑っちぃなぁー! なぁお前! 暑くねーか!?」
「まったくだ! 服を着ているのがバカらしいくらいにな!」
「色々言って悪かったな委員長。しかしなんだこの光は……? あんたの目と、真っ白な肌を見ていると心が洗われていくようだ、俺もアンタみたいになれるというのか?」
「委員長、あなたは間違っている。だけど俺達のほうが多くの間違いを犯してるのかもしれない」
「もう十分だ、ありがとう委員長! 服を着てくれ!」
 クソッたれどもが……! 恥ずかしくねえのか? こいつらは次から次へ意見を変えて……。いつも腐るほど漫画を読んで主人公に感情移入して物語を擬似体験しているくせに、肝心なことを何も学んでない。言っておくけど、お前らなんて突然現れたと思ったら、次のコマで主人公にふっ飛ばされてる雑魚だからな? なんでそっちを真似てんだよ。バスケ漫画でシュート入ったら、ワーッって叫んでる側だからな? あのとき読んで流した涙はなんだったんだよ……! あー、イライラするぜ……!

「私達は……私達は……」
女子生徒たちはまだ決心がつかないようで、この怒涛の事態を飲み込めずにいた。
「みんな裸になるの!?」
「でも……でも……」
「裸にならなきゃいけないの!?」
「ならなきゃいけないとかそういう問題じゃないでしょ!」
「私は裸にならなければ委員長に申し訳が立たないような気がしているんだけど……!」
「それは委員長が勝手にやったことだし……!」
「本当に頭がおかしくなってくる……! 私も委員長が好きだし力になってあげたいけど、でも今回ばかりは……」
「ああ……! 委員長を一人裸にさせているのも悪い気がする、そして、この光は何!? この光に呑まれて全裸になってしまいそう……! それとも委員長への義理なの……!? わからない……! もうどうしたらいいの!?」
「花京院さん……!」
「花京院さん……! 花京院さん……!」
 女子生徒達は自分の頭で処理できる範囲を越えたらしく、すべてを花京院豪華に委ねた。花京院が脱ぐといったら脱ぐのか? いつだってこいつらは誰かの言ったことについていくしかしない。委員長がダメなら花京院。永遠に自分が先頭に立つ番から逃げ回る。
 花京院豪華は両の拳を握りしめて震えていた
「馬鹿な……、どうして……! どうして……! どうして全裸なんかに……!」
「お前が脱げって言ったんじゃん」
 ゲラゲラと一人の男子生徒が野次を飛ばした。
(なんなの!? どうして裸になってるの!? どうして立っていられるの!? どうかしてる……! まさか、本当になるとは思わなかった! 本当にこの人は女なの!? しかし身体は女以上に女の身体をしている……! 果たしてここでたった一人で全裸になることは偉いのか? 正しいのか? 頭では分かってる、間違っていることはわかってる! 委員長は今とてつもない残念なことになっている……! いや、本当に? 委員長は今、残念なことになってるの? なってない、明らかに私の方が劣勢になってる……! なぜ裸の女に還付無きまでに叩き負かされてるの……!? こうして委員長は目の前で裸になってピンピンしている! 委員長の理論だと裸になると弱くなるんじゃないの……!? 全裸になるって実はそれほどでもないの? 死ぬわけでもないし怪我するわけでもない、今、委員長の将来や希望が奪われたようにはとても見えない……! 私は一体何を嫌がっているの? 何を警戒してるんだろう? もうそれが分からない……! 私は自分でもよくわかってないことを大声に出して戦っている……! 自分を支えていたはずの何かがさっきまであったのに、今は見つからない……! みんなで裸になって見つかるものがあればよし、見つからなくてもリスクが無いからよし……? まさかそんなはずはない……! リスクがないはずは……! もうわからない……! いっそこの頭の霧を取っ払うために全裸になりたいぐらい……!)
 
 クソ……! どうしてこんなにイライラするんだ!? どっちに正義があるかなんか言われなくてもわかってる! 全裸だぞ!? 全裸! この世で最も人に強制しちゃいけないものだ、そんなことはわかっているのに……! 
 俺は気づいたら委員長をどかして前に立ち、全校生徒に向かって激を飛ばしていた。
「おめーら一体何なんだよ! いいじゃねーか全裸ぐらい! 簡単だろ! 服を脱ぐだけだよ! いつもやってんじゃねーかッ! 何をそんなに恐れてんだよ! みんなで脱げば何も恥ずかしくねぇだろーーがッ! 温泉と一緒だろ!? ここにひとりで裸になってる女もいるけどなッ! 失ったっていいじゃねーか、失うことが大事なんじゃねえのか!? 別に俺はてめえらの裸なんて見たくねぇんだよ! そんなにお前らが一生懸命鍵をかけて守ってるもんは大事なのかよ! 委員長の言う通り、そのせいで苦しんでいるかもしれねーだろ? だったらわかんねーけど、試してみたらいいじゃねーか! みんなで全裸になったら見つかるんじゃなくて、全裸になることが見つけたのと同じかもしれねーだろッ!? 俺も何言ってるかわかんねーよ! ああ狂ってるさ! 委員長は狂ってる! 俺だって狂ってる! でもお前らだって大概なもんだぜ!? 煮ても煮つかない不燃ゴミみたいに十数年生きるのも十分狂ってるぜ!? せっかく鍵を開けてくれるっていってんだ! 世話になればいいじゃねーか! もう自分で何言ってるかよくわかんねーけど……ッ!」
「森永くん……」
 後ろの方で水樹ちゃんの声が聞こえた。今、どんな顔で俺を見ているんだろう。
 女子生徒たちは火薬壺を見るような目で俺を見ていた。そして彼女達は何かに突き動かされるように口を開いた。それは彼女達の言葉だったのか、それとも講堂が出した言葉か。
「委員長、私達ぶつかってみようと思います。本当に今でさえ何が起きているのかわかりません。急に講堂に招集させられて、全裸になれと言われて、勝手になられて、もう何が何だかわかりません。全裸になる必要があるのかないのかよくわかりません。一度家に帰って考えてみたいと思います。でも委員長が本気だということはわかりました。私達もあなたと……、みんなと、ぶつかってみようと思います」
「私は私は私は私は――私は――私は――」
 花京院豪華は崩れ落ちた。地面に突っ伏して泣いていた。何も言わなかった。誰も何も言わなかった。花京院豪華はその端正な顔立ちの原型がわからなくなるほど泣いていた。委員長の右頬にひとつ光るものが流れ落ちた。そのまま講堂に長い沈黙が訪れた。